第99話 六十年前②
啓助は剣を持ったまま倉庫を出た。地上も倉庫内と同じくらい真っ暗だったが、やはり剣はわずかに発光しているようだった。剣の形だけが、闇夜に浮き上がっているように見える。
啓助は剣を正眼に構え、素振りをしてみた。
次の瞬間、ズバン! と刀身から光の波動が放たれ、周囲の木々、岩肌を切り裂き、抉っていく。
「おわっ……!」
啓助はその反動で倒れ、尻餅をついた。心臓が早鐘を打つ。
光は数十メートル進み、あらゆるものを破壊した挙句、立ち消えた。
「こんな……ことが」
手元の柄から先端までをゆっくり見つめる啓助。
『#&+¥@?&¥*@!!』
『&@"+#&@;*&!』
『キャーーー!!』
「うッ……!」
無数の声が聞こえた。叫び声も。
たくさんの人が逃げ惑っている光景が頭の中に浮かぶ。
「な、何だこれは一体……!」
啓助の視界が虹色に包まれた。
***
その後、王都にほど近い荒野で発見された啓助はすでに魔界の侵攻が進んでいた旧大陸において戦いに身を投じ、剣の力を使って勇者ジャック・シュヴァルツに代わる大戦力として各地を転戦。
そして数ヶ月程経って、王都に襲来した過去最大クラスの魔獣と対峙することになった。
一番外側の城壁の上に立ち、魔獣を睨みつける啓助。一キロ以上離れているにも関わらず、目線を上に向ける必要があった。
啓助はいつものように、剣を正眼に構える。そして素振り。かつて古舘山で出したものよりはるかに大きなエネルギー刃が空を切り裂き、真っ直ぐ魔獣に向かう。
大体の魔族はこれでどうにかなるが、あのデカブツには全く効いている様子はなかった。
「やるしかないか……」
流石に死ぬかもしれない。そんな思いが頭をもたげた。だが、そんなものは怖くなかった。民衆の命は自分にかかっている。
命を賭して戦えることの幸運。我が祖国では叶わなかったことだ。
「ハァァァァァーーーー!!」
勢いよく城壁を蹴り、跳躍。こちらの世界に来て気付いたことだが、この剣のおかげで身体能力がとてつもなく上がっているようだった。
啓助は読み通り、一跳びで魔獣がいる所まで達した。落ちないように刃を魔獣に突き刺し、身体を支える。
魔獣の身体を蹴り、その反動で刃を引き抜いて回転しながら再び魔獣にエネルギー刃を喰らわせる。さっきよりは少しは入ったか。
そう思ったのも束の間、啓助の視界は暗闇に包まれた。魔獣のその大きな口に捕食されたようだ。
だが啓助はむしろ幸いとばかりに四方八方を斬りつけた。やはり剣は暗闇でも、確かな存在感を放っている。
魔獣は耐えきれず口を開いたが、啓助はむしろ喉の奥に走っていった。この魔獣の外皮は確かに硬い。
体内から攻めた方が、まだどうにかなる気がした。