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第98話 六十年前①

 王都がかつてないほど騒がしい。当然だ。目に見える脅威が、確かにそこにあるのだから。

「ヒナンシロー! ハヤク!」

 そんな声が聞こえてくる。こっちの世界の言葉も、ようやく少し、理解できるようになってきた。

「ケイスケ、デラレルカ!?」

 王の城で啓助が間借りしている部屋の扉が開き、ずっと共に戦ってきた国王軍の兵士が顔を出す。

 啓助も準備も終えていた。最後に剣を腰に差し、部屋を出る。


      ***


 真田啓助の父は旧日本軍人だった。戦後に生まれた子である啓助に対しても、勇ましい日本男児になれと厳しく鍛え、啓助自身も自然と強さを求めるようになった。生まれる時代が早ければ、父と共に大日本帝国のために戦うことを夢見た。

 中学を卒業する頃には身体も大きくなり、進学することもできたが就職して、その体躯は重宝された。

 働き始めて三ヶ月ほどしたある日、父の同僚が家に来た。

「ほら、お前も呑め」

 もはや子どもとは見なされておらず、晩酌に付き合わされる啓助。

 本当は仕事で疲れているので寝てしまいたかった。だが、そこで聞いたとある話が啓助を魅了する。

「坊主、知ってるか? 古館って山にある軍の隠し倉庫に、大陸からの物資を俺達が持ち帰ったんだが、その中に面白いのがあってな……」

 そして話してくれたのが、かつて支那の英雄、黄飛鴻が持っていた剣の話だ。その死後、人の手を転々とし、日本軍のとある将校が入手したらしい。引き揚げの時に接収されるのを恐れ、物資の中に紛れ込ませたそうだ。

「馬鹿、やめろ。軍の機密をべらべら喋るな」

 父が厳しい顔になり、喋ったその同僚を叱責する。

「良いじゃないか。戦争は終わったんだ」

「剣は石塚大佐の財産なんだぞ……!」

「今さらあんな剣のことを誰が気にする? 持っていれば銃刀法違反だ」

「とりあえず二度とあの件のことを口にするな。お前も忘れるんだぞ、啓助」

 啓助は忘れることができなかった。特にその同僚が後からこっそり教えてくれた、その剣を使った者が神をも打ち倒せるほどの驚異的な強さを得られるという伝説が。

 もうその翌日には、啓助はこっそり会社を休み、古舘山に入っていた。

「これが……!」

 日が暮れるまで山を駆け回ってようやく地下にある倉庫の入り口を見つけた啓助は、導かれるように一つの木箱を開け、光輝いているようにも見えた剣を取り出した。

 不思議な剣だった。西洋剣でも、中国剣でもないシンプルな両刃剣。強いて言うなら、日本神話の挿絵で見たことがあるような気がする。

「お、おぉ……お?」

 持った剣を眺めていると、段々身体に異変が生じ始めていることに気付いた。

 一日中山にいてクタクタだったのに、疲れが全て取れていた。身体中に生気が溢れて、どんな事でも成し遂げられそうな気がする。 

「これが、神の力……なのか?」


 

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