第97話 共同作戦③
「あっちって、ガルーアにお父さんも行くってこと?」
「うん」
父は平然としていた。
「なんで?」
なんとなく予想はついた。父はずっと"道"について研究してきた。向こうの世界のことが、気になって仕方がないのだろう。
でも、父の答えは違った。
「なんでって……梓のことが心配だからに決まってるじゃないか」
父の声のトーンは変わらなかったが、どんどん早口になっていった。
「大体僕は梓があっちの世界に戻るのも反対なんだ。でも戻らないと、その冥王って人に身体を戻してもらえないかもしれない。梓の元の身体だって、グズグズしてたら死んじゃうかもしれない! だから僕も行って、梓を護る」
「あっちは戦争中なんだよ? お父さんが行って何ができるっていうの?」
私もついつい言い方がキツくなった。でも、こんな運動不足でオジさん体型の父がガルーアに行くなんて自殺行為だ。めちゃくちゃ強い人達でも、あっけなく死んでしまう世界だ。
「そんな危険な場所なら、なおさら梓とソラリスさんを二人だけで行かせるわけにはいかないな」
「……じゃあお母さん!? お母さんはどうするの? あんな状態で! お父さんまでいなくなったらとても生きていけないよ?」
「お義母さ……おばあちゃんに来てもらう。元々事故の後しばらくは来てもらってたんだ……絵莉も絶対わかってくれる。娘を護るためだ」
絵莉は母の名だ。久々に聞いた。
「でも……!」
「梓、お父さんの言うことを聞きなさい。僕は絶対引き下がらないぞ」
父の意志は固そうだった。
ソラリスに、父も来ると言っていることを伝える。
「そうなんだ。戦いに加わらなかったら大丈夫じゃない? あっちには私みたいな普通の人達も沢山暮らしてるし。そりゃあ、こっちよりは危ないだろうけど……」
「そうかなぁ……?」
「でも、アズサのお父さんが来るって言っても、どうやって移動する? 天界からの"道"は、私とリリスだから通れたんじゃなかった?」
そうだった……
***
「失われたぁ!?」
ナックルはサナダ子爵に詰め寄った。
「どういうことだ!?」
「……あれは前回の大戦の、最終決戦のことだ。モントール、覚えていないか? 王都に最大級の魔獣が襲来したあの時を」
「もちろんだ。ジャックは一人魔界に留まり、エラボルタ王も冥王も新大陸にいたことで、魔王がこの大陸に差し向けた最後の刺客、魔界の怪物に瘴気を吸わせてさらに凶暴化させた"魔獣"を我々だけで迎え討たなくてはならなかった。まだ避難も完了していない中でな」
「そうだ。あれは今外にいるデカブツよりもデカかったな」
「あれよりも……? それで、どうなったんだよ?」
「町はほぼ焦土になったが、最終的にはサナダが討ち取った。そうだっただろう?」
ナックルの問いを受け、モントール伯爵が答えた。
「いや……正確にはそうじゃない」
ゆっくり首を振ったのはサナダ子爵だった。
「あの時起きたのは、剣の魔力の暴走だ」