第96話 共同作戦②
「剣を? 何故だ」
サナダ子爵が首を傾げる。だが、その声はわずかに震えていた。
「良いから早く!」
ナックルが荒々しく手を突き出して催促する。
「ナックルのことだ。何か理由があるんだろう。ケイスケ、出してやれ」
モントール伯爵が、サナダ子爵のファーストネームで呼びかける。
「お、おう……」
サナダ子爵は腰に提げていた二振りの青竜刀をナックルに預けた。
これじゃねぇなぁ……ナックルは受け取るまでもなく、それが分かった。目の前の剣からは、何の魔力も感じない。
「おいリリス、違うぞ!」
ナックルは、まだ聞いているであろうリリスに語りかけた。
『えー! でも、その人が六十年前に剣を使ってガルーアに行ったはずだよ!』
リリスの声はまだ聞こえてくる。その言葉を聞くか聞かないかの内に、サナダ子爵に詰め寄るナックル。
「おいオッサン! 他に剣は持ってないのか!?」
「そ、そりゃ持ってるが……」
「そういえばケイスケ、戦争の時に使っていた剣はどうした? お前が『軍神』と呼ばれ、超人的な強さを誇っていた頃に使っていた剣だ」
モントール伯爵もサナダ子爵の方を向いた。眼光が鋭くなる。
「それじゃねぇか! どこにあるんだ!?」
皆の視線を一身に受けたサナダ子爵は、しばらく口を開かなかったが、やがてボソッと呟いた。
「あれは……失われた」
***
『失われた?』
ナックルの声が、スピーカーからうっすら聞こえてきた。
「え、どういうこと?」
しかし、その後はザーザーとしたノイズがひどくなり、まともに聞こえなくなった。
「とりあえず……向こうの世界にはある感じなのかな?」
ソラリスと私は、互いに顔を見合わせた。
ナックルが話す声しか聞こえてこなかったので詳細はわからないが、とりあえずナックルはサナダ子爵と接触して訊ねてくれたようだ。
だけど、最後の"失われた"、という言葉は気になった。
それはこっちの世界から移動した時に失われたのか、向こうの世界に移ってから失くしたのか。後者だったら、これ以上ポリアスにいる理由はない。
「ねぇ、どっちだと思う?」
私は今考えたことを、父とソラリスにそれぞれの言葉で伝えて反応を待った。
「うーん……僕はそもそも向こうから聞こえてくる言葉も何にもわからないからなぁ」
父はただただ苦笑いをしているだけだ。だけど、ソラリスは違った。
「たぶん……剣は向こうの世界に行ったんだと思う」
「なんでそう思うの?」
私の問いに、神妙な面持ちで言葉を続けるソラリス。
「私達がサナダ子爵に初めて会った時のことを覚えてる? あの人は、もう昔のようには戦えないって言ってた。それと昔、『軍神』って呼ばれてたって」
「そうだっけ?」
そういえばなんか、物悲しい顔をしていた気がする……
「たぶん、昔はポリアスの剣を使っていて、すごく強かったんだと思う」
「なるほど……よく覚えてたね……じゃあ戻らなきゃだね! ナイスソラリス!」
私達は軽くハイタッチ。
「えっと……?」
父がそんな私達をまじまじと見つめる。
「ごめんごめん。剣はたぶんあっちの世界。私達は戻らなきゃいけない」
「そっか……やっぱりもう行っちゃうんだね」
「うん。また心配かけてごめんだけど、お母さんをよろしく……」
「僕も行くよ」
「え?」
私は耳を疑った。
「僕もあっちの世界に行く」