第90話 ポリアス⑤
私達三人で協力して、いくつかの箱を下ろし、中身を確認したが剣のようなものは見つからなかった。
視界も悪くて危ないし、空気は淀んでいる。息苦しくなってきた。
「ねぇ……これ、キリがないんじゃない?」
すっかりへばってしまった状態で一休みしている時に、私は父に言った。左右に大箱が山積みになった通路は、奥にまだ数十メートル近く続いている。
「でも……急ぐんだろう? この世界で、ここにある可能性が一番高いと思うよ」
額の汗を拭いながら、父も言った。
「そうだけどさ……」
向こうでは今も戦っている人達がいる。それは分かっていても、これだけの量を一つ一つ確認するのは流石に気が遠くなる。
「ねぇ……」
同じようにくたびれた表情をしているソラリスが私をつつく。
「六十年前に剣を使った人がいたんだよね? その人が持っていったりしてないのかな?」
あ……
「……そうじゃん。むしろここにまたしまい込んでる方が不自然かも」
少なくともその人は、剣の在処を知っているはずだ。私は父の方に向き直った。
「ここで剣を使った人の情報はわからないの?」
急な申し出に目をパチクリさせていたが、すぐにかぶりを振った。
「昔、一通り資料は漁ったけど詳しい情報はなかったね……」
父の言葉を翻訳して伝えた後、ソラリスは少し考え込んだ。
「そもそも何のために使ったのかな……? ガルーアが戦争をしている時に。あっちの世界に移動するため……とか?」
「え、じゃあ私以外にもガルーアに行った人がいたってこと?」
「わかんない。そうじゃないかなって」
「ソラリスは向こうの世界で何か聞いたことない? それっぽいこと」
「ごめんわからない……私クリル村からほとんど出たことなかったから」
「そっか……」
六十年前、この剣を使った人はそれを持ったまま向こうに行ったかもしれない。少なくとも使った人のことがわかれば剣の在処も掴めるかもしれない。
あっちに戻った方が良い……? でもそもそも戻り方もよく分からないし……もし向こうになかった場合、再びこっちに来られるかも分からない。
私は頭を抱えた。私達だけではあっちの情報がほとんどないも同然だ。
そんな時だった。私の視界がガラリと変わった。
「おじい様から話を聞いたことがあるわ。先の大戦で、異世界から来た人がいるって」
目の前にあったのは、リリスがいる牢獄だった。
「リリス……聞いてたんだ」
「ちょっとやめてよ……私だってずっと一緒に感じてたし、考えてたんだから」
「ごめんごめん。そうだよね……」
リリスの真実がわかってからは初めて話すから、どうしても奥歯に物が挟まったような反応になってしまう。
リリスもそんな雰囲気を感じ取ったのか。
「だからやめてって。私が魔王の娘だったとか、おじい様がほんとは父だったとか。そうだとしても、私は私。何よぉ……」
リリスはそう言いながら、私の反応を軽く拗ねたような目で見る。
「びっくりした。リリスは強いね」
「うーん。でも、アズサがいてくれたからかも」
「え、どういうこと?」
見慣れた見た目なのに、思わずドキッとする。
「アズサが私の外側にいてくれたから、私も受け止めきれたのかも。普通な時に聞いてたら、また違ってた気がする。ありがとね」
「う、うん……」
そういうものなのか。じゃあ私がガルーアに飛ばされた意味も少しはあったのか……な?
「さぁ! 湿っぽい話は終わり! 六十年前にポリアスから来た人を知りたいんでしょ?」
「そんな人ほんとにいるの?」
「サナダ子爵。あの人は元々私達の世界の人間じゃないって聞いたよ」