第83話 ガルーア②
「ふぅーっ ふぅーっ」
マリアは襲いくる敵の、最後の一体を斬り伏せた。
「終わった……か?」
ニックが拳銃をホルスターに収め、ナディアがナイフを腰に差す。
「一旦はな……」
三人が振り返った先には、重傷を負ったアルハンブラの姿が。浅い洞窟の中に横たえられ、ダミアンがその身にすがりついている。
「他の皆は?」
生き残った人間達は輪を描くように手近な岩に腰を下ろしていた。ナックルは三人を運んだことによって、バテて寝転がっている。
「メイディとロマーナはまだ大陸を逃げている怪物を追っていたはずだ。今どうしているかはわからない……ブルース殿はいつの間にか行方不明になった。そっちこそ、あの二人は?」
マリアがニックに訊ねた。
「リリスとソラリスはポリアスに行った。剣を求めて、一縷の望みをかけてな」
「あの二人で!? 危険じゃないか?」
「なんか、大丈夫らしい。平和な世界なんだとよ」
「そうか……確かにこっちにも剣が2本あれば、少しは希望が見えるか……」
「いやぁーあっちの世界で剣を見つけるのはだいぶ難しいみたいだ。一つの国だけで一億人以上の人間がいるらしい」
その場にいたガルーアの人間は皆、目を丸くした。
「そんなにか……ならば相当望み薄だな。まぁ何の罪もない少女二人が戦禍から逃れられただけでも良しとするべきか」
「おい、罪がないって……リリスってのは魔王の……」
「子どもに罪がないのは変わりないだろうが!」
ニックが、言いかけたギルドメンバーを一喝した。静かになる周囲。
「……とりあえず、これからどうする? 遂にこの世界が戦場になった。どこで大虐殺が起こってもおかしくない」
「世界警報は? 出したんだろ?」
「ああ、また出してる。各自治区にドローン飛ばして見てるけど、新大陸の被害は最小限に収まってるみたいだね」
サムが、手元に持つモニターを見ながらその声に応える。
「魔族が大海洋を越えるのも時間の問題だ。ナックル君がいるなら、私は旧大陸に戻りたい。対策を講じねばならない」
「えぇーっ! マジかよ!」
ナックルが頭だけ起こし、恨みがましく王を見る。
「おい、逃げる気かおっさん」
「この大陸だって、君主は本来アンタだろうが!」
「ここで俺らと一緒に死ねよ!」
「それ以上は許さんぞ、口を慎め!」
ナディアが声をした方を睨む。
「これは、ウチのが失礼しました……だがしかし、戻ったとて勝算はあるんですか?」
ニックが神妙な面持ちで尋ねた。
「戦争を経験した者は随分少なくなった。しかし、準備をしていなかったわけではない。武器を集め、避難の方策を整えていた。うまくやれば被害は最小限に抑えられるが、その前に、民の不安を鎮め、混乱を抑えなくてはならない。剣とナディアは置いていく。行かせてくれ……!」
エラボルタ王は、傷を負った両手をつき、頭を下げた。
「おい、何してんだ。頭を上げてくれ……」
一斉に焦りだすギルドメンバー。唖然とする旧大陸の兵士達。ナディアは、なんとも言えない表情で王を見つめていた。
***
「ふん、貴様を殺すなど容易いわ!」
魔王は剣が弾かれた方の手を突き出した。だが、何も起きない。
「……白魔法!? メリルめ……!」
「ほう……あいつもなかなかやるな」
ブルースが軽く笑う。
「クッ……」
魔王は冥界の剣が落ちた方へ走った。
その身体を、何発ものブルースの銃弾が追う。