第82話 ポリアス①
「ねぇ、大丈夫? 大丈夫アンタ? 私の声聞こえる? 日本語わかる?」
身体が軽く揺すられている。耳元で声がする。随分なダミ声だ。
自分がうつ伏せで倒れていることはわかった。頬が熱い。妙にゴツゴツした……アスファルトだ。
そうだ、あの変な井戸に入って……ソラリス!
私はガバっと起き上がった。
「うわっ! びっくりした!」
目の前にいたのは、派手な柄の服に短髪にきついパーマをかけたおばちゃんだった。
向こうではありえない光景。なんだか泣きそうになる。
「外人さん? 日本の暑さは殺人級だからね〜。救急車呼ぼうか?」
「いや、大丈夫……です」
「お! 日本語解るんだね。確かにそこまで悪くなさそうだけど、きつかったらちゃんと病院行きなよ!」
おばちゃんはそう言って立ち去った。
病院……
私が倒れていたのは、児童公園の入口だった。
……知ってる。ここってもしかして。自然と足が動いていた。
知っている坂を上り、知っている角を曲がる。
高台に出た。見慣れた景色。
間違いない。私の街だ。
***
ソラリスはどこにいるんだろう。
私が倒れていた周りにはいなかった。近くにいればいいんだけど……
「ねぇ、ちょっとアンタ! この子アンタの友達じゃない?」
あてもなく彷徨っていたら、さっきのおばちゃんの声がした。
振り返ると、さっきのおばちゃんと……
「ソラリス!」
私は急いで駆け寄った。
「リリス……ここなの? 私達はちゃんと着けたの?」
「やっぱり友達だった。この子も倒れてたんだよ。大変だったんだよ? この子、日本語通じないから」
「ありがとうございます」
そういえば、おばちゃんとソラリスが話している言葉は確かに違った。ソラリスが話しているのは、絶対に日本語ではない。でも、私には両方理解できた。
自分では意識していないのに、私もそれぞれと話す時に言語を切り替えている。
「うん、ここで合ってる。ここが、私がいた世界」
「へぇー、なんかすごく……ゴミゴミしてる……」
「ア、アハハハ……」
確かに、いくら地方都市からだいぶ外れたこの街でも、家や個人商店の全然高くない建物が所狭しと並んでいる。
自然豊かで、どこかゆったりとしたあっちの世界では見られない光景だ。
「うーん、こっちの世界でも、昔はあんな感じだったかも! 何百年くらい前だったらたぶん……」
「ふーん……」
やば、マウント取ったみたいになったかも、と思ったが、ソラリスは空返事をしながら、興味深そうに辺りをキョロキョロ見回している。
「じゃあ、またなんか困ったことあったら言いなよ! 私、このへんよく歩いてるから!」
おばちゃんはそう言って立ち去った。何してる人なんだろう……
「で、どうやって剣を探すの? ここじゃ確かに……大変そう」
「私もまだ途方に暮れてるところだけど……でも、行きたいところがあるの」
「どこ?」
「病院」
「びょう……いん?」