第80話 天界へ⑩
おじいさんに教えてもらった道順を頼りに、私とソラリスはこの城の地下にあるポリアスに至る"扉"を目指して歩いていた。
道案内をしてくれるというリラさんの申し出を、ソラリスは固く辞退していた。
「ああ、君まで行かれて、どさくさに紛れて越界されては敵わんからな」
おじいさん達にもそう言われて、リラさんはひどく悔しそうだった。
「ほんとにリラさんと話さなくていいの?」
私はまっすぐ前を向いてスタスタと歩くソラリスに言った。ようやくこっちを振り向くソラリス。
「何話していいかわからないし。ずっとお母さんは死んだって言われてたから」
「まぁ、でも、ソラリスが生まれてからは天界から出られなかったみたいだし……」
「関係ないよ。それならそうって言ってくれたら良かった。リラさんについてはぶっちゃけあんまり何も思わないけど……秘密にされてたことの方がショック。お父さん、なんで言ってくれなかったんだろう……」
寂しそうな顔をするソラリスに、私はなんて言葉をかけて良いか分からなかった。
「あ、ここじゃない?」
おじいさん達に教わった、中が光る井戸のような物が見えた。少しホッとする。
「こっちだね……」
井戸は二つあって、それぞれポリアス、ガルーアと書かれている。
「ここに入るの? なんか嫌だな……」
井戸には梯子とかもついておらず、ただ虹色の光が漏れ出ているのみだ。
「飛び込むしかない……みたいだね」
「えー」
ソラリスが顔をしかめる。たぶん、私も同じような表情をしているのだろう。
「たぶん大丈夫だと思うけど……高いところ平気?」
「え、わかんない。村にはそんな高い建物なかったし、旅に出てからもそんな……ねぇ」
実は私はそんなに得意ではなかった。少し高いビルの窓から下を見ただけで、身体が竦む。
ただ、今回は光っているおかげで高さを感じることはない。実際に高いのかどうかもわからない。
私とソラリスはそろそろと、ポリアスに通じる井戸の縁に腰掛けた。自然と、手を繋ぐ私達。
「向こうでもよろしくね」
「また……会えるよね?」
私は急に怖くなった。
ソラリスが笑う。
「私はあっちの世界のことを知らないから、もしそうなったらリリスが見つけてよね」
「う、うん」
それが難しいんだってば。
「じゃあ行こっか」
ソラリスが淡々と言う。ちょ、ちょっと待って……
行き先についてはある程度、本人の思考が反映されるらしい。剣が日本にあるのに、外国に飛ばされては大変だ。パスポートもないのに。
えーと、日本日本。頑張って、今となってはすっかり懐かしくなった日本らしい風景を思い浮かべる。
私はソラリスに向かって頷いた。
握る手がより一層強くなる。
「せぇのっ!」
私達は何かに引っ張られるような感覚になりながらも、ただひたすら落ちていった。