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第79話 天界へ⑨

「え!?」

 私達は一斉に叫んだ。

「何? どうなってるの!?」

「お父さんは!?」

「状況を説明せぇ! ゲンジョウ!」

「詳細は……わからん。アルハンブラは不意を突かれたようじゃ。重傷を負っとる」

「まだ……生きてるんですね?」

 ダミアンが少しほっとしたように言った。

「ああ。だが事態は深刻じゃ。魔王は二本目の剣を得た。おぉ……虐殺が始まっておる」

「戻りましょう。これ以上ここでグズグズしていられない!」

 ナディアさんが私達の方を見て言った。その表情は今まで見たことないくらい厳しい。

 私達は皆、踵を返した。……ニックさんを除いて。ニックさんは勢いよく私の両肩を掴んだ。

「やはり君はポリアスに行ってくれ! リリス! 剣一本だけじゃ、勝ち目がない。もう一本いるんだ!」

 私はナディアさんを見た。ナディアさんもこっちを見て頷く。

「お願い。戦力の分散という意味でも有効よ。私達がもし全滅してもまだ、希望が残る」

 そう……するしかないのかもしれない。ナディアさんの真剣な眼差しは私の中にも決意のようなものを生み出した。

「不安なら俺も行こうか?」

「いえ、大丈夫です。日本では武器を持っている人は出歩けませんから」

「へぇ、随分平和なんだな」

「いずれにせよ、お主はポリアスには下れん」

 長老衆のおじいさんの一人が、ニックさんに言った。

「ガルーアヘはアルハンブラが開いた道で戻れば良いが、本来この世界からは神しか移動できないようになっている。ここには剣がないので新たな道も拓けんでな。ポリアスに行けるのは元より、全ての世界の要素を持つお主と……」

 そのおじいさんは私を指差す。

「『罪の子』であるお主。そして……」

 そう言っておじいさんが次に指差したのはソラリスだった。

 え?

 私達が怪訝に思うことが吹き飛ぶくらいの勢いでリラさんがソラリスの方を見た。

「貴方、名前は?」

「ソラリスです」

 ソラリスがおずおずと答える。

「はぁ……はぁっ」

 リラさんの呼吸が粗くなり、膝から崩れ落ちた。

「そうじゃ。その娘は16年前、お主が禁を犯して結ばれて産まれ落ちた子じゃ」

 ソラリスの表情がどんどん曇っていく。だが驚いたというわけではなさそうだ。

 一方で、リラさんは信じられないといった表情でソラリスを見ている。

 そして、元々ソラリスから話を聞いていた私はそれほどでもなかったが、皆は心から驚いていたようだった。

「……だが、ソラリスには羽根が生えてないじゃないか」

「一度でも人間の血が混ざると翼は失われるのだ」

「じゃあ、本当に……」

「ソラリス……」

「ポリアスには、私も行きます。行けるんですよね?」

 呼びかけるリラさんを遮って、ソラリスがおじいさん達に尋ねた。

「ああ。君も神の血を引いているからな」

「ありがとうございます。私も行くから。リリス」 

「え……あ、うん……」

 心強いとか、そんなことを感じる余裕はなかった。

 皆もこれ以上は話を続けられない雰囲気になった。


      ***


「じゃあ、俺達は元の世界に戻る。ダミアン、本当に良いんだな?」

 死神の子であるダミアンも、ポリアス行きが可能だと伝えられていた。

「うん、お父さんが心配だから」

 既に戦場になっているらしいガルーアに向かう皆の表情は固かった。

 ナディアさんが私とソラリスを抱き寄せた。

「無理はしないで、と言いたいところだけど、事態はあまり良くない。何とか見つけてきてほしい。もし間に合わなくても、私達の世界を忘れないでいてくれたら嬉しい」

「……はい」

 私は返す言葉が見つからなかった。

「やっぱり天界の皆さんは増援に来てくれないんですね」

 私は振り返って言った。

「すまない。本来なら私が行ってやりたいんだが……」

 リラさんが唇を噛んだ。

「リラは禁を犯して人間と交わった。故に越界を禁じられている。まぁ、それ以外の神は皆、自由意志で動く。声はかけておいてやろう」

「感謝します」

 ナディアさんが頭を下げた。

「じゃあ、行きましょうか」

 私達は互いに背を向けた。

「ナックル、これくらいの人数ならこの森に運べる?」

「うーん、まぁ天界は思ったより魔力に溢れてるから、ギリいけるだろ」

 そんな声が後ろから聞こえる。

 私の隣にいるソラリスは、リラさんの方を見ようともしない。

「ポリアスへは、どこから行けるんですか?」

 ソラリスがおじいさん達を真っ直ぐ見据えて言った。



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