第77話 天界へ⑦
「先の戦いでは……魔王に対抗するために アルハンブラ様の助力は得ましたが、私達の世界の剣は到着が間に合いませんでした。二本揃えば対抗できたかもしれないということですね」
ナディアさんがそう神様達に尋ねた。
「ふん……体良く言葉を繕っているが、あのエラボルタという小僧が保身に走っただけであろう。自らは前線に出ることなく、卑怯な輩よ」
「……民を護ることも王の重要な役割でございますので」
ナディアさんは軽く目を伏せながら答えた。
「ぬしが一番被害を被ったのではないか。エラボルタに急遽呼び出され、まだうら若いのに単身魔族の巣に派遣され。見ておったぞ。エラボルタはあの城の近辺で雑魚を斬るばかりじゃ」
「その場に"居る"ことに意味があるということもございます……」
「いずれにせよ、あの腕では加勢したとて大した戦力にはならんわ。剣の力を微塵たりとも引き出せておらん。ジャック・シュヴァルツを喪ったことは大きな痛手ではあろうな」
そう言ったのは、また別のおじいさんだった。ナディアさんはようやく顔を上げ、少し目を見開いた。
「エラボルタ王は私達の世界ではジャック様を除けば一番の剣術使いです。それでも力不足ということですか」
「剣術の問題ではない。剣の力をほとんど引き出せていないということだ。その点、ジャック・シュヴァルツは驚異的だった。人間でありながら天界の力をあそこまで使いこなしておったのだからな」
「それでは、アルハンブラ様とエラボルタ王が仮に揃ったとしても、勝利できるかわからないということですか? 魔王はそこにいるダミアン殿のおかげで今、傷を負っております」
「怒りを糧に、さらに力を増しておろうな」
「そんな……」
ナディアさんの表情が曇っていく。希望がどんどん失われていっていることが、私にも分かる。
「じゃあ、剣三本ならどうだ?」
絶望感が漂う中で、そう言ったのはニックさんだった。
「皆も聞いただろう、世界はもう一つある。剣の在り処はわからないということだったが、神様、あんた達なら知ってるんじゃないのか?」
もう一つの世界、ポリアスと呼ばれる……私の故郷。
ニックさんの問いに、神様達はなかなか答えなかった。何か考え込んでいる。そんな様子だ。
「……細かい場所はわからん。私達も随分前に見失った」
「なんだって!? あんたら神様なんじゃないのかよ!」
「ニック! 謹んで!」
ナディアさんがニックさんをきっと睨んだ。
「……あの世界には人が多すぎる。物も、信仰もな。もうあの世界の者たちは我々を必要とはしていない。全てを自らで生み出し、完結している」
真ん中にいるおじいさんが、重々しく言葉を続けた。
「剣が最後にあった国は判っている。日本だ。だが剣はそこで歴史の表舞台から姿を消した」
え……