第75話 天界へ⑤
「それってつまり……」
「いや、わかんないんだけど……」
私達の会話は、リラさん自身によって遮られた。
「準備ができました」
どこか見覚えのある、眼が四つある大きな馬。ナディアさんとニックさんはもう背に跨っていた。
前にあっちの世界で乗った馬よりはるかに速く、この馬は走った。みるみるうちに景色が移り変わる。
でも、この方向って……
「ええ、王都ね」
数時間後に取った休憩中、ナディアさんが言った。
「私達の世界と照らし合わせると、このまま行けば王都にたどり着く。位の高い人物がいるのだとしたら、特に不自然なことではないわね」
やっぱり。行く道中も見覚えがあった。
ソラリスとはあれから話すことができなかった。
どこか思いつめたようなところもある気がするが、基本的にはいつもと変わらない。
***
「ほんとに王都だ……」
塀に囲まれた広大な土地の中央に遥か高くそびえ立つ城。入り組んだ階層構造のある街。目の前に広がる光景は、かつて訪れた王都とほとんど変わりなかった。
ただ一つ違うところがあるとすれば、空を飛んで移動している住民の姿が多く見えることか。
街を歩く間、その背に翼を生やした神達に物珍しげな目で見られた。その翼と、全員が全員、無地の真っ白なチュニックを身に纏っていること以外は、あっちの世界の王都と変わらない街の営みがあるように見える。
城に入ろうとした時、筋骨隆々で槍のような武器を持った門番に、初めて止められた。
だけど「この人達は大丈夫」というリラさんの言葉で、簡単に引き下がる。
「リラさんって、すごいんですね!」
「私達神の間に、上下関係はないの。今から会いに行く長老もただ永く生きているだけ」
階段を昇り、あっちの世界では玉座のあった部屋へ。
あっちの世界と違ったのは、そこにあった椅子は一つじゃなくて沢山あったこと。半円を描くように並んでいる。
そのどれもに、随分と歳の取ったおじいさんが座っている。
「随分とお仲間を増やしたんですね」
そう言ったリラさんの声と眼差しは、どこか冷たかった。
「一人では……判断を誤ることもある」
真ん中、頭一つ高い椅子に座ったおじいさんが口を開いた。
「おかしな話ですね。元々、天界では希望者全員参加の合議制をするのが掟でしょう。私達は皆平等。貴方は代表者に過ぎない」
「まぁ、そうピリピリするな。掟については当然わかっている。ここにいる"長老衆"は皆、知識と経験が豊かな者ばかりだ。このように常に集まっていることで強さとなるのだ」
同じおじいさんがリラさんを諭すように言う。
「……良いでしょう。その件については後で。そんなことより緊急でお伝えしたいことが」
「何だ? そのお客人達に関係のあることかな?」
「ええ。魔界がガルーアを攻めたと。何故我々が察知できない内にそんなことができたのか不明ですが。この者達は我々に救援を求めています」
「ふむ……その事か。それについては……」
「ちょっと待ってください」
リラさんがおじいさんの言葉を遮った。
「知って……たんですか?」
「……ああ、知っていた」
「何ですって!? そんな大問題、天界全体に即座に周知せねばいけないはずでしょう! 対処を皆で話し合わなければ!」
「待て……待て! もう我々には剣もないのだ。今アレに全面的に対抗する手段はない。それは君がよくわかっているはずだろう! 君が剣をジャック・シュヴァルツにもたらしたのだから」
私達は、一斉にリラさんを見た。