第70話 真実⑤
「天界の剣? ジャックが剣を見つけたのはこの世界だぞ」
ブルースさんが首を傾げる。
「最上位世界である天界の剣は特殊でな……五つの世界のバランスを乱そうとする動きがあった場合、抑止力として他の世界に貸し出されることがある」
「なるほど。それを知らずに借りパクしてたわけか……」
「あげく壊してな」
アルハンブラさんの言葉に、謎に盛り上がるニックさんとジェイさん。
「天界っていうのは、どんな世界なんですか?」
そんなざわつきを無視して、ソラリスが尋ねる。
「天界とは神々が暮らす世界だ。何を隠そう死神である冥王も、天界から遣わされて冥界を治めている」
答えたのはなぜか、ナックルだった。
「魔王は違うの?」
「魔王という存在は……」
ナックルだと思って気軽に問いかけたら、話し始めたのは再びアルハンブラさんだった。そして私がこの質問したからか、空気が少しピリつく。
「根本的に我々とは違う。あれは全ての世界から流れ出た欲の塊だ。突如として産まれ落ち、剣と出遭い力を得た。神の座を求めて大戦争を起こしたが、退けられた」
そうなんだ……ホッとしたようなそうじゃないような、よくわからない気持ち。何と反応して良いかわからない。
「そんな神ってのがいるんなら、魔王をどうにかしてくれないのか」
「どうだろうな…… 」
「だが、神っていうからにはすげぇんだろ?」
アルハンブラさんが言葉を濁しても、ニックさんは食い下がる。
「俺達にはもう余裕がない。すがれるもんにはすがる。それが神ならなおさらだ」
アルハンブラさんはそんなニックさんをしばらく眺めた後、口を開いた。
「道は開いてやる……頼むのは自分達でやれ」
「何?」
「ここはお前らの世界。それが筋だろう。そこまで介入する義理はない」
「やるしかねぇか……」
ニックさんは腰の拳銃の持ち手のところに手を置いた。
「待って」
声の主はナディアさんだった。
「私が行く」
皆がナディアさんを見る。
「どういうことだ?」
「このような交渉は本来王族が行うべきもの。今、エラボルタ王はいませんが、私が全権を任されています。なので、私が」
「おい待て、それは旧大陸の理屈だろう。ここは新大陸だ。アンタを信用してないわけじゃないが、アンタ一人に背負わす気はない。俺も行く」
ナディアさんは小さく頷いた。ナディアさんの震えが少し、収まった気がした。
今度はジェイさんが口を開く。
「おいニック、お前本気で行く気か? お前は貴重な戦力だ。お前が行ったら魔界にどうやって立ち向かえばいい」
「それは……!」
二人は顔を見合わせた。
「構わんぞニック、行って来い」
そう言ったのはブルースさんだった。
「魔界が攻めて来ようが、まだ俺がいる。二連撃ちを使えるやつは貴重だが、そいつは神の世界でもきっとお前を助けてくれる」
「……決まりだな、天界に行くのは俺達二人だ」
「待ってください!」
私とソラリスの声が重なった。
「私も行きます」