第69話 真実④
「勇者は……もういない。この状況で俺達はどうやって魔界に立ち向かえばいい?」
さっきよりは人数が絞られた話し合いで、ニックさんがアルハンブラさんを真っ向から見つめ、尋ねる。
「勘違いするな。前の大戦が終わったその時点から、ジャックは勇者ではない。あいつはもう魔王に対抗できるような状態ではなかった」
「じゃあ……元々勝機はなかったってことか?」
「さぁな……勝負なんてのはやってみないとわからん。絶望的であることは確かだが」
「俺達は甘んじて侵略を受け入れるしかないと?」
「……五つの世界のバランスが崩れるから、それは避けたいな」
「五つ?」
横からジェイさんの声が聞こえてきた。
「世界はそんなにあるのか? 壁画と文書にあったのは四つだったぞ」
「四つ!?」
今度はニックさんが驚いてジェイさんを見る。
あ……私が説明した方が良いかな。だけど、なかなか話に入れない。
「ああ、確信はないけどな。ちょうどジャックさんがあんたに聞こうとしてたよ、冥王さん」
ニックさんの問いに応えるように、ブルースさんも口を開く。
「どうも、この世界と冥界、魔界以外にもう一つあるのは確かなようだ。この世界と対になる下位世界だったか」
皆の視線がアルハンブラさんに集まった。アルハンブラさんが弧を描くように手を回すと、五つの光る玉が出現した。光の線で輪のように繋がる。
「コルドで何を見たかは知らんが、実際の世界の構造はこうなっている。この世界はガルーア。もう一つの下位世界ポリアスと並列関係にある。その上位の冥界と魔界も対になっている。そしてその上にあるのが……天界だ」
アルハンブラさんが、最後に一番上の玉を指差す。
「四角形だと思っていたが……五角形だったか」
ジェイさんが自分の顎をなでながら呟いた。
「ああ、そして五芒星でもある」
光の線が、新たに星の形に玉を結んだ。
「五つの世界は元々、極一部の決められた交流以外は互いに干渉することはない。しかし互いにバランスを取り、支え合っている」
「天界ねぇ……先の大戦の時も、そんな話は一切聞かなかったぞ。ジャックも知らなかっただろう」
ブルースさんも、白い口髭を撫で始めた。
「あいつが知っていたかは知らんが、剣は各世界に一本と言ったはずだ。ポリアスの剣は行方知れず、君達が言っている王家の剣というのは本来ガルーアの剣だ。魔王の剣というのは魔界の剣、この冥王の剣は冥界の剣だ。勇者の剣だけ、世界に属していないはずがないだろう」
ということは……
「勇者の剣の真の名は、天界の剣だ」