第68話 真実③
「やっぱり……そうだったんだ……」
「!!?」
私の声に驚いて、皆が一斉にこっちを向く。
「リリス……! いつからそこに……どこまで聞いた?」
「うん……全部」
ブルースさんが悔しそうに目をそらす。
「もう大丈夫なの?」
「うん、ありがと」
ソラリスが駆け寄ってきてくれる。リリスが落ち着いてきたら、自然と目は覚めた。
私の身体に変化が起きていないということは、今もまだ聞いているであろうリリスも、そこまで動揺はしていないのだろう。
私が来た後は、皆自然とこの話はしなくなった。
代わりに話題の中心になったのは、これからの戦闘をどう続けていくかだ。
「ギルドでは生き残ったやつの方が少ない。ラスさんも……戦力は半減だ」
そう嘆く声と共に、皆の表情がどんどん曇っていく。
「ああ、だがジャックとメリルを除けば単独で魔族に対抗し得る戦力は皆生き残った。ニックも二連撃ちを習得したしな。不幸中の幸いだ」
「おい、ブルースさん! そりゃあないだろう! じゃあ俺らなんて最初からどうでもよかったみたいじゃないか! あんな地獄に連れてったのはアンタだろう!!」
「おいよせ! ブルースさんもそんなつもりで言ったんじゃない!」
ニックさんが抑えようとするが、皆の怒りが収まる様子はない。
「この話を続けても無益だな。私とて妻を喪っている。悲しみにくれさせてもらおう」
アルハンブラさんがそう言って立ち去った。
それでもなお言い合いを続けているギルドの人達を尻目に、私はその背中を追った。
***
「話があるんだろう、山梨梓」
野営地が遠い光の点になったくらいのところで、アルハンブラさんが振り返らずにそう言った。
向こうから話しかけてくるのは予期していなかったので、私は言葉に詰まる。
「あ、あの……メリルさんのことは本当に……」
「よせ、そんな話をしにきたんじゃないだろう」
アルハンブラさんは、ようやく私の方を見た。
私の心の内も全て見透かされているようだ。
なら私も、ためらう理由はない。
「リリスは魔王と勇者の子どもで、ほんとはもう何十年も生きてる……アルハンブラさんは、私がリリスの同位体って言いましたよね? 私は普通に生きてきたただの平凡な人間なんですけど、何かの間違いだったんじゃないですか?」
自分自身の出自についてリリスは納得できたかもしれないが、私はずっと受け入れられなかった。
アルハンブラさんはしばらく私を見つめ、そして口を開いた。
「……同位体というのは流動的なものだ。二者の間の共鳴度がどれほど高いかだからな。リリスのようなケースの場合、その年代ごとにそれぞれ同位体が存在した。今は君だ」
そうなんだ……ほっとしたような、そうでないような、不思議な感覚。
「じゃあやっぱり特別じゃないんですね……」
「出自はそうかもしれないが、今は確かにリリスの同位体なんだ。きっと君は特別なんだろう」
淡々とではあったが、その言葉からは確かに、温もりを感じた。
「アルハンブラさん!」
見ると、ソラリスがこっちに走ってきていた。
「戻ってきてください。貴方がいないと、あまりにも希望が無さすぎます。皆どれほどの恐怖を抱いているか……」
「あそこにいるやつは誰も、本気で問題解決をしようとはしていない。時間の無駄だ」
「じゃあダミアン君に寄り添ってあげてください。まだ、あそこにいます」
「……あの子は強い子だ」
「あの子は母親を亡くしたんですよ!? 貴方も確かに奥さんを亡くしたかもしれませんが、今あの子に寄り添えるのは、貴方だけです」
決して臆することのないソラリスのその言葉で、アルハンブラさんはようやく身体の向きを変えた。