第64話 冥王vs魔王③
「ねぇ! あれ!」
「わかってる!」
戦場を飛ぶように走る怪物の背の上からソラリスが指差した先には、メイディ達アマゾネスと、ニック達ギルドメンバーがいた。
マリアは怪物に語りかけ、スピードを落とす。
向こうも自分達に迫る怪物を一瞬警戒して武器を構えたが、すぐに仲間が乗っていることに気づいた。
「撤退するぞ! 生き残りはお前たちだけか!」
「ブルースさん! いや、わかりません。車ごと行方知らずのやつらもいます。うまく離脱してればいいんですが……」
「そうか、仕方ない……俺が探そう。死んでいたとしても、骸は持ち帰らにゃあ……」
怪物の背から降りようとするブルースを見て、ダミアンはナックルの腕を引っ張った。長い付き合いで、二人のコミュニケーションはもはやそれだけで良い。ナックルはため息をついた。
「いいよじいさん、俺が行く。生きてても死んでても"扉"の向こうまで連れて帰ったらいいんだろ?」
言い終わる頃には、ナックルは姿を消していた。
「さて、この人数でどう戻るか……」
ブルースが改めて、仲間達を見回す。
ドゴッ!
物音のした方を振り返ると、ロマーナが怪物をもう一匹捕まえていた。両腕で頭を抑えつけている。
怪物はすぐにおとなしくなった。
***
大振りな武器には不利な間合いに、入られた。冥王はとっさに剣と大鎌を捨て、魔王の剣を持つ手を掴む。そして半身分さらに身体を寄せ、肘で魔王の顎を狙った。
「!?」
魔王が口を開くと、そこから紫色のエネルギー波が放出された。
冥王は大きく身体を反ってその攻撃を避ける。
その隙に魔王は剣を持ち替え、冥王の腹に突き立てようとした。
その時だった。いくつものことが同時に起こった。
黒い渦のようなものが発生して、魔王の攻撃を防いだ。同時に冥王の身体が後ろに引き下げられる。その手元には剣と大鎌が戻っていた。
「あら、久しぶりね……メリル」
冥王の側にいるのはメリルだった。
魔王は一瞬眉を上げたが、すぐに平静に戻った。
「あんまりお痛しちゃダメじゃない……リリス」
それまでは魔王をキッと睨みつけていたメリルが、突如血を吐いた。
「メリル!!」
「魔王の力をナメないでよ? 間接的にでも、貴方の命なんか簡単に奪えるんだから」
冥王の腕の中で、どんどん弱っていくメリル。
「メリル……メリル!!」
冥王の表情がかつてないほど動揺し、慟哭する。
***
"扉"を目指して疾走する怪物の背の上で、ダミアンとナックルが同時に後ろを振り返った。
だが無情にも、誰にもこれを、止めることはできない。