第63話 冥王vs魔王②
冥王の得物は2本。魔王の得物は1本。この不利な状況を打開するために、魔王は手数と変則性をもって対抗した。踊るように攻めたてる。
袈裟斬りを受けられると即座に剣を戻し、ターンして逆の胴を狙う。凄まじい速さの動きにも関わらず、冥王はこれも弾いた。
まるでこの世の全てを刈り取れそうな大鎌の刃がその首を掻こうとするも、魔王は難なくそれを避ける。姿勢を下げたまま、冥王の腹に掌底を押し込んだ。
冥王の顔が初めて歪む。踏ん張ってはいるが、それでも三十メートル近く後ろに下げられた。
「神の座に胡座をかいているのはそっちじゃないか?」
魔王は笑みを浮かべ、剣を振り上げる。紫の光刃が冥王を追って、飛んだ。
斬撃はどんどん大きくなる。冥王は目を見開き、剣と大鎌を胸の前で交差させ、受け止めた。
それでもなお、斬撃は進み続ける。冥王は途中から真正面から対抗するのを諦め、二本の武器をうまく使い、力を逸らせ受け流した。
勢いの衰えない攻撃が、周囲の魔族に甚大な被害をもたらす。
「確かに、随分と強くなっているようだな」
魔王の次の一撃は、すでに冥王に迫っていた。魔王は背につけた漆黒のマントを翻し、冥王を翻弄しながら不規則な攻撃を加えていく。その切っ先は時折、冥王の数ミリ手前まで達していた。
***
「もう俺達は限界だ! 怪我人が多くてとてもじゃないがこれ以上戦いは続けられない! かといって離脱の目算も立たない。何とかしてくれ!」
そう言うニックの後ろには、ジェイ達ギルドメンバーの生き残りが。
「ああ、私もそろそろ潮時だと思っていた。ロマーナと合流してから、脱出の算段を整える」
メイディが、身一つで怪物に立ち向かうロマーナを指差す。
「ああ、あれか……」
ニックが拳銃を抜く。その直後、その怪物は倒れていた。
メイディが目を見開いてニックを見た。
「今のは……?」
「ただの人間もそこそこやるだろう?」
***
「このまま"扉"まで戻るのは現実的じゃない。全員死ぬぞ!」
リリスを抱えたナディアが叫ぶ。リリスの意識はまだ戻らない。
「ナックル、瞬間移動はできないの?」
「勘弁してくれよ、この人数は無理だぜ〜」
「だよね……」
ソラリスが目を落とす。
「もう少し耐えてくれ。どこかの車までたどり着けば、修理できないかやってみる……ん?」
全方位を一人で警戒していたブルースが、何かに気付いた。
「おい、どうにかなるかもしれないぞ」
声の調子が少し上がる。
「え?」
「うわぁ!!」
「キャーー!!」
「ほんぎゃあーーー!!」
六人を覆う影。さっきまではいなかった怪物の巨体が、そこにはあった。そしてその背には、マリアの姿が。
「みんな乗って。脱出するよ」