第62話 冥王vs魔王①
「せっかくジャックを殺したと思ったら、次はお前かアルハンブラ……」
「ふん……神のなりそこないが、偉そうな口を叩くじゃないか」
アルハンブラは右手に冥王の剣、左手に死神の大鎌を持ち、魔王を攻めたてていく。
剣も大鎌も、触れれば即死。魔王の剣でしか対抗できない。
魔王は一度距離を取り、紫色のエネルギー波を放った。冥王は灰色のエネルギー波をぶつけ、相殺させる。
「ナックル! ジャックの身体を回収しに来い!」
ジャックの亡骸の周りで、ピンクの煙が沸き立つ。
***
ナディアが鍛えた腕力にものいわせ、リリスを運ぶ。ソラリスは軽く手を添えるくらいだ。
この一団を、魔族達が狙う。ナディアが戦えない分ブルースがカバーするが、限界があった。
「あれ……? あの二人は?」
ソラリスが呟く。ダミアンとナックルがいない。
振り返ると、少し後方でダミアンが父親の方を未練がましく見つめていた。ナックルの姿は見えない。
「ほら、もう行かないと!」
ソラリスが戻って手を引っ張る。
「何してる! 離れるんじゃない!!」
ブルースが、二人を狙う狼男をヘッドショットで沈める。だが、もっと多くの敵が迫っていた。
「ムゥ……さすがにマズいぞ」
ブルースが眉をひそめる中、ソラリス達の周りを何百羽ものカラスが飛び回った。
「!?」
「これは……」
ブルースが口の端を上げる。
「メリルさん……」
「ママ!」
ソラリスが、目の前に立つ、黒衣のその姿を見て呟いた。
「まったく……なんてザマなの。ほら、道は開けてあげるから早くお行きなさい。さ、ダミアンちゃんもここは危ないから一緒に。まだママ達はやることがあるから」
「う、うん……」
カラスの輪が横に広がり、道を作る。
「すみません、ありがとうございます!」
ソラリスは一礼して、ナディア達の方へ。
メリルはブルースの方に目をくれた。
「ジャックのことは残念だった」
「互いにな」
ブルースが帽子を軽く上げる。
「その子らは生かせよ」
「わかってる」
***
メイディは戦場の潮目が変わっているのを感じていた。道の先では大きな力がぶつかり合い、魔族達は自然とそこを避けるように動いている。
-----------------ここにこれ以上いるのは危険だ。ロマーナと合流しないと。
メイディはしばらく顔を合わせていない同胞のことを思った。
戦い方が最も派手なのはジャックだったが、次いでロマーナだ。一目見れば、そうとわかる。
数百メートル向こうで、粉塵が上がった。あれだ。
メイディは一直線に、そこを目指す。阻む敵は容赦なく薙ぎ払った。
自分に近付く、気配を感じる。
メイディは長棒を振り回し、間合いに入った瞬間にいつでも脳天を叩き割れるように備えた。
「お、おいちょっと待てよ! 俺だ!」
聞いた声に、メイディの動きが止まる。そこにいたのは、ニックだった。