第61話 道の戦い⑦
「もっと! もっと近くだ!」
マリアの目はしっかりと怪物の姿を見据えていた。
「難しいんだよ、あいつ速いんだから……」
サムは難しい顔で操縦桿を握っている。
二人が乗る飛行戦車も、細かい軌道修正を挟みながらも、すでに相当速い。それでも、縦横無尽に走り回る怪物の動きを捉えるのは至難の業だった。
「行くよ!」
とうとうマリアが跳んだ。その直後、怪物がまた方向を変えた。
「!?」
「いけない!」
サムはとっさに、怪物の進行方向にビームを撃った。怪物が驚いてそれを避ける。
次の瞬間、マリアの身体は怪物の背の上に。
怪物はさらに暴れ出した。だがマリアは決して屈しない。怪物の心に必死に語りかける。
サムは途中までその怪物とマリアを追っていたが、じきにかなわなくなった。さっきまで戦っていたのとは違う巨人の拳が、サムを狙う。
その速さはマシンの機動力を超えていた。グシャッという音と共に、ドローン部が潰される。
「おおおぉああああぁ〜〜〜!!」
飛行能力が失われ、戦車部ごと投げ出されて落下するサム。
「僕は負けないよ! フルブラスト・フォーメーション!!」
サムがそう唱えると、それまで各所に散って戦闘を続けていたドローンの残存機が全てサムのもとに集まってきた。
一台は即座に戦車にドッキングし、間一髪、サムを救う。他のドローンは巨人に集中砲火を浴びせている。
科学の粋を集めた最大火力の攻撃は、巨人の命を奪うことに成功した。
***
祖父はあの女の人と戦っているようだったが、その姿はほとんど見えなかった。それでも私は時折垣間見える残像と時折拮抗して静止する二人を、呆然と眺めていた。
「リリス、そんなところにいたら危ないよ」
ソラリスが私をつつく。
でも私はなぜか、目を離せなかった。祖父ではなく、少しでもあの女の人を目に収めようとしていた。
また二人が現れた。女の人の剣を振るう手を、祖父が回し蹴りで弾いている。また消えた。
今度は空中から揉み合いながら落ちてきた。
二人とも難なく着地し、今度は地上で攻防を始める。女の人の剣を、祖父は最小限の動きで避けているように見えた。
そんな中、女の人がこっちを見た。祖父に向かって何かをささやく。祖父も私に気付いたようだ。ひどく驚いている。
次の瞬間、その女の人の持つ剣が、祖父を貫いた。
私は言葉を失った。
身体を貫かれる直前、祖父はこう言った気がした。
『リリス……』
そして何かに吸い込まれるように、私の視界が暗くなる。
***
「ジャック!!」
いざとなったら自分がしんがりを務めようと覚悟して、戦いを見ていたブルースが叫んだ。
そしてすぐに、二人の視線の先にいるリリス達に気がついた。
「こんなところまで……!」
魔王に向かって発砲しながら、走る。
魔王もリリスの方に歩き出した。そしてなぜか、倒れるリリス。
「いかん! お前ら、早く逃げろ!」
ソラリスとナディアがリリスを抱え、走り出す。ブルースが何とか間に合い、盾となった。
眉を上げ、再び剣を抜く魔王。
ブルース、ソラリス、ダミアン、ナックル、ナディア。その場にいた皆の緊迫感が一気に高まる中、予期せぬ声が聞こえた。
「遅くなった!」
「お父さん!!」
"冥王"アルハンブラが、突如として現れ、魔王に斬りかかる。