第60話 道の戦い⑥
ブルースは魔王に銃口を向けた。
「何をしている。無意味なのはお前が一番よくわかっているだろう」
魔王はフフンと笑う。
「そうだ、ブルースさん。私がやる」
ジャックが一歩前に出る。だが魔王は一切動じない。
「ジャック……あぁ、ジャック。もはや勇者でもないお前に何ができる」
魔王が恍惚とした表情でゆっくりと剣を抜いた。禍々しく紫色に光る刀身が現れる。
「あの頃より魔力の扱いは長けているぞ」
「力の"質"が違うのだ!!」
魔王は一度地面を蹴っただけで、もうジャックの元に到達していた。
魔王の一太刀を手に持ったステッキで受けるジャック。ステッキは即座に粉々に砕けた。
だが、ジャックは動じることなく魔王の腕を掴んで身体をひねり、背負って地面に叩きつけた。
魔王の華奢な身体からは想像もできないような地響きが鳴る。
ジャックの身体の下で、魔王がニヤリと笑った。掌も紫に光り始める。
ジャックの表情に初めて焦りが浮かんだ。
次の瞬間、一筋の光の槍が突き上がった。光は、上空の渦をも切り裂いた。
「ほう、驚いた……前より速くなっているな」
よっこらせと立ち上がった魔王が振り返る。視線の先には、汗をかき、肩で息をするジャックの姿があった。
***
人間側勢力で、ジャックに次ぐ実力者は間違いなくマリアだった。
ジャックが魔王との戦闘を開始して以来、マリアの負担は明らかに増加していた。
もう何体の魔族を斬ったかもわからない。パワードスーツは何箇所も裂けていて、身体に達している傷も多い。
ふと気付くと、それまで斬ってきたのと同じ位の数の敵に囲まれていた。
-----------------さすがに死ぬかもしれないな。
覚悟を新たにして、手に持った刀を八双に構える。そんな時だった。
「マリア!!」
上空から降り注ぐレーザーに、魔族達が貫かれていく。サムのドローン合体戦車だ。急降下する戦車から伸びた手を掴み、マリアも飛び乗る。
「すまない、助かった」
サムと唇を重ねるマリア。
戦車が上昇すると、戦場の様子がよく見えた。完全に多勢に無勢なのはもちろん、さっきまでとは明らかに様相が異なっていた。
「魔王か……」
「うん、ジャックさんと戦ってるみたいだね。まるで天変地異だよ」
「とても手出しできるレベルじゃないな。このままだとマズい。皆を遠ざけないと……だが退くにしても機動力がもうないだろう。素直に離脱させてはくれなさそうだ」
「コンテナも車も全滅。敵も全然減らないからね……」
「……あれだ! あれを使おう」
しばらく辺りを見回してから、マリアはとある方向を指差した。
「あんな怪物どうするのさ?」
その先には巨大な四足歩行の醜い怪物がいた。今まで戦ってきた怪物の中では比較的小柄で、すばしっこそうだ。
「アマゾネスには野生動物と心を通わせる能力がある。何とかあれを乗りこなそう」
「え、そんな能力あるの? もう長い付き合いなのに見せてくれたことないよね?」
「カラギールに野生動物なんかいないだろう」
「ああ、まぁそうか……その能力って魔界の怪物にも効くの?」
「わからんが、やってみるしかない。下ろしてくれ!」
「了解。気をつけてよ……」