第58話 道の戦い④
「ああああぁ〜〜〜〜!!」
数十メートルの距離を落下する私達。
「クソ!」
ナックルから放たれるピンクの煙が私達の方に伸びる。その煙に包まれた瞬間、私は地表の上に移動していた。周りには、ダミアンとナックルもいる。
「ソラリスは!?」
「スマン、間に合わなかった!!」
私は咄嗟に上を見る。目線の先に、ソラリスはいた。
「ソラリス!!」
このままじゃ……そう思ったときだった。
ソラリスの身体を、何かが攫う。
「ドローン!?」
いや、後ろに何か付いてるような……
「ごめん! ギリギリだったね!」
私達の元までソラリスを運んできた"それ"は、さっきコンテナから飛び立っていったドローンのようだったけど、タイヤとムキ出しの操縦席がついていて、サムさんが乗り込んでいた。砲門も一つ多い気がする。
「これって……」
「これが僕の戦闘モード、戦車。大型のドローンとは互換性を保ってるから、合体することで飛行もできる。さて、コイツまで引き出されたからには、僕もやるしかないね」
そう言ってサムさんは、私達を置いて飛び去り、巨人と戦闘を開始した。
「逃げないと……!」
私はソラリスと目を見合わせる。
でももう周囲には、私達を狙う目が光っていた。虎や狼といった猛獣の顔を持つ魔族達が、私達を囲んでいたのだ。
「ひいいいぃ〜〜〜〜!!」
ナックルはジロリと周りを睨み、ダミアンは小さなナイフを構えるが、何とも頼りなげだ。
「ゥグガァァゥーー!!」
唸り声を上げ、敵が飛びかかってくる。
私とソラリスはなすすべもなく、抱き合って目を瞑った。
「諦めるな! 死ぬよ!! 足掻け!」
そんな声が聞こえた。
目を開けると、ナディアさんのナイフが敵の喉元を切り裂いていた。
返り血を浴びる間もなく、即座に周囲の敵の足元に潜り込み、切りつけ、体勢を崩していく。そして倒れた敵にとどめをさす。流れるような動きだ。
一通り敵を排除したナディアさんが、腰が抜けた私達を起こしてくれる。
「ほら、こっち!」
私達は、走り出した。
***
どれだけ撃っても、サイの男には一向に効いている様子がない。
車を潰した鉄球が、ニックとガイにも襲いかかる。かろうじてギリギリのところで避け、必死に逃げる二人。
「アイツ動きはトロいぞ!」
二人は倒れた怪物の後ろに回り込んだ。助けを求めていたジェイの車が、まだ何とか持ちこたえているのが見える。だが、とてもじゃないがあの数の敵を相手にはできない。
「なぁ……今のこの状態をどうにかするには、二連撃ちしかないんじゃないか」
ガイがニックの耳元で呟く。
「何言ってんだ。ブルースさんははるか先にいるんだぞ」
「お前がいるだろ……ガキの頃からずっと練習してたじゃないか」
「そりゃあ、あの技はガンマンなら一度は憧れる。だが、無茶言うなよ……成功したことなんかねぇんだ……」
「でもやるしかない。そうだろ?」
ガイはその場で体勢を変えた。
「俺があいつらを引きつける。その隙に仕留めてくれ。頼んだぜ」
「おい! 待てよ!」
ニックの制止に構うことなく、ガイは走って出て行って、ライフルを撃つ。
「ちょっと待ってくれよ……!」
ニックは腰のホルスターからリボルバーを取り出した。今までの練習を思い出そうとしたが、まるで参考になりそうもない。
その代わりに、出発直前にブルースが言っていた言葉が脳裏に甦ってきた。
『集中しろ、ニック。生きるか死ぬか、極限の集中の中で二連撃ちはようやく花開く。俺はそうだった』
その言葉を何とか噛みしめ、ニックは立ち上がった。拳銃を空に一発撃ってからホルスターに収める。
その音に反応する、周りの魔族。
それまでガイを追っていたサイの男も気付いた。鉄球の軌道を即座にこっちに向ける。
だがニックは、そんなものには目もくれない。目にも止まらぬ速さで拳銃を抜いた。そして何万回も練習して、染み付いた手の動き。
ニックの弾丸は、サイの男の身体を撃ち抜いていた。
気が抜け、膝から崩れ落ちるニック。
持ち主を失った鉄球は、その頭上を越え、周囲の魔族を薙ぎ払った。