第57話 道の戦い③
ジャックに次いで車を降りたのはアマゾネスの面々だった。
メイディが振るう長棒は魔族の鎧を砕き、ロマーナのひと突きは敵を何十メートルも吹き飛ばす。
中でもマリアの強さは別格だった。『カラギールの天使』の名に違わぬ純白のパワードスーツに魔族のドス黒い返り血を浴びながら、すでに何人もの敵を斬り伏せていた。
本格的に、二つの陣営がぶつかり始めた。
ブルースやナディアといった猛者は相次いで戦闘を開始したが、多くのゼリナスギルドの面々は未だに逡巡し、車を降りることができない。
「おい、こりゃ一体どういう悪夢なんだよ……! 生きて帰れる予感がしねぇよ!」
ニックは扉に隠れながら、近付いてくる敵を窓から銃口だけ出して撃っていた。車に残った者は皆、そんな状態だ。
『エンジンがやられた! 動けない!』
通信機からジェイの声が聞こえてきた。
「おい、どうする」
同乗しているガイが、ニックの方を向いて言った。
「うるせぇ! こっちだって似たようなもんだろ……」
実際にニック達が乗る車も混戦の末、ジャックに倒された怪物の身体に激突してからは、その場から動けないでいた。
『囲まれてる! このままじゃ保たない!』
また通信が入った。
「ヤバそうだぞ……」
幸いなことにニック達は、怪物の身体が盾になってそこまで絶望的な状況ではなかった。
「うーん……」
ニックが顔を歪め、ガシガシと頭を掻く。
「俺らだって余裕はねぇんだ! 自己責任だろ!」
そう言うギルドメンバーもいる。だがその言葉に、ニックはカチンときた。
「あ? てめぇ新顔だな? あいつらが死んでも良いってのかよ!」
「自分が死んだら意味ねぇだろうが! 大体どこにいるかもわかんねぇんだ!」
『ニック、彼らは君達から見て、怪物を越えて4時の方向だ。すまないが救援に行ってもらえるかい? 僕らからは少し遠い』
通信機からサムの声がした。
「……俺は行くぞ」
ガイが呟いた。
「行くしかねぇよなぁ。全体無線でこんな事言われたら」
ニックも銃を持ち直す。
二人はライフルを目線で構え、怪物の身体の輪郭に沿って進んだ。ニックは前方と横、ガイは後ろと上方を警戒する。
他のメンバーは結局車に残った。ニックとガイが車を降りて少ししてから、人間の背丈よりもはるかに大きな鉄球がそれまで乗っていた車を潰した。絶句する二人。
見るとサイの顔を持つ大男が鎖に繋がれた鉄球を振り回している。
「ああああぁぁ〜〜〜〜!!」
二人はその魔族の男の方へ銃を乱射したが、一向に効いている様子はない。
***
「これはマズいね……」
サムさんがポツリと一言そう言った。画面には各戦況の場面がズームされて映し出されていたが、祖父やブルースさん、アマゾネスの人達は敵に対して遅れこそ取っていないものの、それでもやはりこの人数差はどうしようもない。明らかに圧されていた。
「奥の手だったんだけど……」
サムさんが手元を操作すると、コンテナの上部が開き、ドローンが何機も飛び立っていった。
ドローンの先端には2つ砲門がついていて、ビームの雨を降らせている。
「……!」
コンテナが大きく揺れた。驚いた。反重力装置で浮いていたので、今までは一切揺れたことなどなかったからだ。
「何!?」
皆パニックだ。
全面に上方の映像が映し出された。
「巨人!!?」
そこには百メートル近くありそうな大男がこのコンテナを掴んでいる姿があった。ドローンを出す時に開いた部分に、指をかけられたようだ。
機体がどんどん持ち上げられていく。
「わ! わ!」
巨人は両手を使って、コンテナを引きちぎろうとしている。そしてその様子が、ありありと見えるのだ。
メキメキメキ……という音とともに、遂にコンテナが真っ二つに割られていく。
「キャーー!」
私達は皆、空中に放り出された。