第56話 道の戦い②
"扉"の中に入ると、濁った虹色の大気が渦のように囲む、一本道だった。
道は長く、先が見えない。その道を車とコンテナが疾走するが、車同士を繋ぐ通信機から、ざわめきが聞こえてくる。
『おい……奇襲をかけるって話だったよな』
『ああ、このままだと正面衝突になるんじゃないか……』
声は徐々に大きくなってきた。
『どうなってるんだ! 魔族の軍隊と直接やり合うなんて自殺行為だぞ!』
『帰らせてくれ! 今からでも引き返せるだろ!』
「荒れてきたね……」
サムさんが呟く。
『案ずるな!』
祖父の声だ。
『彼奴らはこの道に我々が乗り込んでくるとは思っていない! 正面とはいえ今叩くことで十分な奇襲になる!』
しかし動揺は収まらなかった。
『そんなこと何故わかるんだ!』
『向こうが待ち伏せしていたらどうするんだ!』
『おい、車止めろ!』
『やめろ! このまま運転を続けるんだ!』
何台かの車のスピードが少し落ち、進路がブレ始める。
「どうしよう……このままだと戦いが始まる前に皆バラバラになっちゃう……」
「まぁ、でも彼らが言うことにも一理あるからね」
心配そうに言うソラリスに対して、サムさんはあくまで冷静だ。
少し経って、車はだいぶ安定してきた。
そんな時、私達が乗るコンテナの中で、
ビーッ! ビーッ!
という警告音が鳴り響いた。天井についたランプが赤く光る。
「何!?」
「敵だ。5キロ先。センサーが反応している」
サムさんが画面を操作すると、道いっぱいに広がって迫ってくる大軍が映し出された。
シルエットだけでわかるその異形の群れに、絶句する私達。
「今のこのスピードなら、すぐにぶつかるよ!」
サムさんの声に、少しだけ緊迫感が混じる。
画面が戻ると、もう敵は肉眼で見えるくらい近づいていた。
武装した獣の顔を持つ魔族に加え、有に数十メートルはある様々な怪物が視界を埋め尽くしている。
『一気に叩いて押し戻すぞ』
声が聞こえた直後、祖父が車から飛び降りるのが見えた。
私は目を疑った。祖父はその身一つで、車を追い越して走り出したからだ。
***
ジャックはステッキを使って、手近な敵から叩きのめしていく。
人間よりはるかに身体能力の高い魔族を持ってしても防御が間に合わず、敵の攻撃がジャックに当たることもない。
勇者の力・雷の魔法を使うジャックは、その力を使って神経を通る電気信号の伝達速度を上げ、身体の動きを高速化していた。これが第一段階。
ジャックに、"扉"のときよりも大きな怪物が迫る。ジャックは地面を蹴った。その怪物の背丈よりも高く身体が浮く。
怪物の脳天に、ジャックの拳が振り下ろされた。拳の勢いそのままに、怪物の身体が沈む。ジャックの身体は一回りほど大きくなっていた。
電気で筋肉を刺激し、強化する。それが第二段階だ。
空中のジャックに、何匹もの獣が牙を剥いて迫る。ジャックの身体をいつもの蒼い雷が覆った。一つの光弾となって、瞬く間に怪物の身体を貫く。
第三段階。これは最後の手段だ。
ジャックは、限られた残留魔力でこの長丁場を乗り切るために、これらを細かく切り替えながら戦う必要があった