第55話 道の戦い①
戦いには私とソラリスも同行することになった。離れ離れになっていると、例によって護りきれなくなるからだそうだ。
ダミアン、ナックルとも一緒に、カラギール自治区から大量の物資を運んできたコンテナに乗り込む。
驚いた。外から見るとただの大きなコンクリートブロックが浮いているだけのようだったが、中からは外の様子がしっかりと見えていた。なんなら360度全面に映し出されている。
「わぁ……すごい、なにこれ」
ダミアンとソラリスがその光景をキョロキョロと見回している。
「結構性能の良いカメラ載せてるけど、外からは全然気付かなかったでしょ?」
運転席のような場所に車椅子ごと固定されているサムさんがこっちを振り返った。
「この中だったら基本的に安全だとは思うから」
ギルドメンバーが乗る車が何台もこのコンテナを取り囲んでいた。緊張した面持ちで武器を握りしめているのがよく見える。
今まで一緒に旅をしてきたメンバーもそれらの車に分乗していたが、祖父とブルースさんは同じ車に乗り、何かを相談しているようだった。
***
車とコンテナは"扉"の前に着いた。
祖父とブルースさんが車を降り、前に出た。祖父は封印したときに残したステッキを抜いた。
電流の網がなくなった。封印が解けたのだ。
次の瞬間、前にも見た怪物が姿を現した。
ギルドメンバー達が慄くのがわかる。その存在感も鮮明に映し出してくる目の前の映像は、私達の背筋も凍らせた。
その怪物は目の前に立つ二人に、勢いよく襲い掛かった。
だが、二人は何も動じる様子はない。
一本の閃光が怪物を貫いた。そんな感じだった。その光は、その直前に振り上げられた祖父のステッキの先から放たれていた。
「すごい……」
「ああ、すごい。あれが二連撃ちか……まさかこの目で見られる日が来るなんて」
サムさんが呟く。
「二連撃ち?」
「ほら、これこれ」
サムさんが手元を操作すると、映像が巻き戻った。サムさんはブルースさんを指差す。
コマ送りで再生されると、ブルースさんが一瞬拳銃を抜いているのが見えた。
「それでこれ」
サムさんは別の所を指差した。ズームしてくれた画像を見ると、怪物にはもう一つ傷口があった。
「それからこれ」
別の場所で、もっと小さいゴミのような物が映っている。
「弾丸。貫通してるね」
「え……?」
あの山みたいに大きな怪物を?
「二連撃ちはとんでもない威力を持った射撃方法だよ。ブルースさんしかできない。もはや伝説さ」
「へぇー……」
やっぱりすごい人だったんだ……
映像が戻ると、怪物はその場で倒れ込んでいた。"扉"の前を塞いでいる。
「あちゃー。これじゃ通れなさそうだな……」
サムさんが"お手上げ"のポーズを作る。
「このままフタにしちまえばいいんだ」
ナックルがせせら笑う。
「向こうは……そうは思ってないみたいだね」
ロマーナさんも車から降りていた。祖父が怪物の方を指差して、何か言っている。
「え!? 何する気……?」
ロマーナさんは怪物に近付き、両手をつっぱってその巨体を押し始めた。
しばらくは何の変化もなかったが、やがて徐々に動き始めた。少しずつ怪物の身体が横にずれていく。
コンテナの中の私達は皆、呆然としてその光景を見つめていた。信じられなかった。怪物から見てみると、ロマーナさんの身体なんか虫みたいに小さいのに。
「さすがだね、『アマゾネス』。彼女はパワータイプか。マリアに聞いたけど、稀に生まれるらしいね」
「そっか、マリアさんもアマゾネス……」
「なんでマリアさんはカラギール自治区に?」
ソラリスが尋ねる。
「アマゾニアスを出て、外の世界を知りたかったらしい。それでなんでか、僕が警備責任者になったばかりのカラギール自治区にたどり着いたみたいだ。そこで、僕らは出逢った」
サムさんは目をつむり、優しい顔つきになった。思い出に身を委ねているようだ。
え、二人ってもしかして……
「あ!」
ダミアンがその一瞬の静寂を破る。指を差した方を見ると、充分に開いた隙間から祖父達が乗る車が中に入っていくのが見えた。
「じゃあ、僕らも行こうか」
明らかな緊張が顔に出ている私達と違って、サムさんの余裕は崩れない。