第53話 予期せぬ開戦①
サムは即座にドローンを起動させた。センサーで酒場全体を探る。反応があった。
「そこだ!」
ブルースはすぐにサムが指差した場所を腰だめで狙い、ナディアはナイフを投げた。
カメレオンの顔をした男が、心臓を銃弾に貫かれ、頭にナイフが刺さった状態で姿を現し、倒れ込む。
「まさか! こいつはカラギールで始末したはずじゃ!」
驚くサム。
「"魔族"だからな。奴らは一族で動く。それより他に反応はでていないか?」
ラスがサムに尋ねた。
「ええ。侵入者はコイツだけのようです」
「そうか、ならば急いでこっちをどうにかせねばな。換気を急げ!」
ジャック、マリア、ニックを始め、たくさんの人間が瘴気を吸ってしまった。
「リリス! リリス!」
ソラリスが、倒れたリリスにすがりついている。
「ダミアン! 貴方治せるんでしょ! 早くして!」
「う、うん!」
ダミアンも急いで駆け寄った。
『マスター! 封印が解けそうです! 電圧が著しく下がっている!』
そんな通信が入った。
「マズい! ジャックさんがやられたからだ! 急いで避難しろ!」
ラスが通信機に向かって叫ぶ。
「ダミアン君! 悪いがジャックさんから治してもらえるか! 犠牲者が取り返しのつかないほど増えてしまう!」
「……! はい!」
ダミアンが懐から、三日月のように湾曲したナイフを取り出した。ジャックの身体にその刃を何度か入れる。
「これは……何をしているんだ? 治りそうなのか?」
ブルースが怪訝そうに見つめる。
「あれは死神の大鎌……のちっさいやつだ。」
集中しているダミアンの代わりにナックルが解説する。
「普通に斬ったら、相手に無条件の"死"を与える。逆に峰で斬ったら"命"を与える」
「ほう……そういえば大戦のときにアルハンブラもそんなことを言っていたか……」
「ダミアンは気付いたんだ。瘴気が生物の生命エネルギーを利用してるってことにな。だから死神の権限で一度"死"を与え、瘴気を除去させた上ですぐに蘇生させる。そして神の能力で身体を回復させて終わりだ」
そう言っている間に、ジャックに対しての"治療"が終わった。
「ダミアン! 次はこっち!」
ソラリスが呼ぶ。ソラリスは、今にも暴れ出しそうなリリスに抱きついて必死にその動きを止めていた。周りももう完全に戦争状態だ。瘴気を吸い、身体が醜く変化する仲間達を傷つけないように拘束しようと苦心する。
「おい! 早くリンネイ草もってこい! 眠らせるんだ急げ!」
ダミアンは次にリリスの治療を開始した。
「ん? なんかむずかしいな……」
ソラリスが見守る中、ダミアンが首をひねる。
「ほんとに魂一個? リリスって」
「ううん、なんか2つあるって……」
「えー! 早く言ってよ! ボクそんなの相手にするの初めてだよ?」
「それでもがんばってよ! ダミアンしか治せる人いないんだから!」
「わ、わかったよ……」
***
「……っはぁっ! はあっ! はぁ……」
ひどい悪夢から覚めた。そんな感じだった。でも、何も覚えてない。
「リリス! よかった……」
目の前にはソラリスがいた。周りには、私と同じように身体を横たえた人が並んでいる。
そしてそれよりさらに向こう側では、もっと多くの人達がせわしなく動き回っていた。
「一体何が……」
「魔界の封印が解けた」
そんな声が聞こえた。ブルースさんだ。すぐ近くにいた。
「え?」
「瘴気を吸った。君も……ジャックも。そして封印が解けた。ジャックが治療のために一度死んだからだ。魔力が完全に途切れてしまった」
そして、ダミアンが編み出した治療法について解説してくれた。
「じゃ、じゃあ……」
「ああ。戦争が始まる」