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第52話 合流②

「王様がね、魔族の動きが活発だから、今は剣は渡せないって」

 ダミアンが口を尖らせながら、そう言った。

「まったくもってありえねーよなーー、何だよアレ!」

 ナックルも怒りを見せている。

「むう……これで八方塞がりか……」

 祖父がうなった。

「でもねでもね、『代わりに大陸最強の戦士を同行させよう!』って」

「ん?」

 全員の視線が、二人と一緒に来た少女に注がれる。

「そう、それで私が来ることになった……みたいね」

 綺麗なストレートの金髪に、質素な髪飾りをつけたそのお姉さんも、ほんの少しだけ困惑しているようだ。

 ヒラヒラと女性らしさもありながら革製の衣服とブーツで動きやすそうだ。腰にはナイフのようなものを差している。 

「私はナディア。モントール伯爵家の娘よ」

「すっごかったんだよこのおねえさん!」


      ***


 ナックルと、尿意を我慢していたダミアンがテレパシーで言い合いをしていた頃、『ヴェロニス』の隠れ家の別のフロアでは血の雨が降っていた。

「おい、なんなんだよコイツは!」

 生き延びた男達が、その刃を避けようと逃げ惑う。

「こっちの台詞。一掃したはずなのにまた現れて……ゴキブリなの?」

 ナディアがナイフについた血を払う。

「何だと!?」

 不意をつかれ、一瞬の内に三人が殺された。それだけで急造チームには大打撃だ。あとは慌てて駆けつけたガンジスともう一人の仲間、そして魔族の女だけだった。

 ガンジスともう一人の男が、短剣を手にナディアの前に立ちはだかった。

 ナディアはナイフを逆手に持ち、手元に引き寄せた。身体の急所を護る軌道で、腕をくねくねと動かす。

 ガンジスの短剣の切っ先がナディアの喉元を狙った。

 ナディアは身体の正中線をずらし、それを避けた。ガンジスの腕に絡みつき、固める。

「貴方がガンジスね。貴方は後で尋問」

 ナディアはその状態でガンジスの右脇に鋭い膝蹴りを入れた。肝臓への直接のダメージに崩れ落ち、意識を失うガンジス。

 それを見たもう一人の男は警戒して、なかなか襲いかかってこない。二人は向かい合って、牽制し合う。

「うわぁ~〜〜!」

 やがて焦りと恐怖で我を失った男が、のろい一撃を放った。ナディアは冷静に繰り出された男の腕をナイフで一回撫でて、一回刺した。

 痛みで短剣を取り落とす男。ナディアはもう片方の手で男を引き寄せ、ナイフはそのまま男の首筋に突き立てられた。


 あとは、魔族の女一人だけだった。

「なかなかやるようね。ヴァンスを殺したのも貴方? いい男だったのに……」

 ヴァンスとは以前の『ヴェロニス』王都支部のリーダーだった男だ。

「その忌々しい口を早く閉じなさい」

 ナディアの表情が変わる。

「礼儀がなってないわね」

 呆れたようにそう呟いた、豹の顔をしたその女の動きはナディアが経験したことのないようなものだった。

 あまりにも速すぎるし、不規則。

 一瞬驚いたナディアだったが、その動きのある構えは変わらなかった。

 一切隙がないナディアに、女も攻めあぐねる。時折繰り出される鋭利な爪による攻撃も、全てナディアに捌かれていた。

 女が動揺を見せ始める。

「こんな人間がいたとはね……」

「貴方が鈍ってるんじゃないの?」

「調子に乗っていられるのも今のうちよ!」

 まるで本物の猛獣のように、正面から牙を向いて飛びかかってくる。

 ナディアはとっさに、さっき自分が殺した男を盾にした。身に牙が喰い込み、一瞬動きが止まる。

 ナディアはナイフを喉元から脳天に向かって突き刺した。


 全てを終わらせたナディアによって、扉が開かれた。

「子ども……?」

『助けてーーー!』

 状況を把握できていないダミアンの下半身は、ビショビショに濡れていた。


      ***


「ちょっとナックルーーー! ボクが漏らしちゃった話はナイショって言ったじゃんかーー!」

 ダミアンがナックルの口を慌てて塞ぐ。

 だが、周りはそれどころではなかった。

「そうか……やはりガンジスは裏切り者だったか……注意深く見ていたがほとんど尻尾は出さなかったがな」

 私もショックだった。あのガンジスが……

「今は王都で尋問を受けてるわ」

「だが、聞いたことがある……旧大陸の裏社会の噂で、国家の安寧を乱す者たちを秘密裏に屠る『悪役令嬢』のことを。まさか本当にこんな少女だったとはな。白兵戦で魔族を倒すとは……」

 ラスさんが呟いた。

「ほとんどが父が直接動けない裏の仕事。前にヴェロニスの王都支部を潰してからは、エラボルタ王から直接仕事を請け始めたけどね」

「それで今ここにいるってことか……だがいくら強いといっても剣の代わりには……」

 祖父は厳しい表情を崩さない。

「これで剣の当ては全滅だ。振り出しに戻った。封印に使う私の魔力も限界があるぞ。あと2週間といったところだろう」

 そう口に出した瞬間だった。酒場の真ん中にいた祖父の顔のすぐ近くから灰色の煙が噴き出した。

 見覚えのあるそれは……

「瘴気だ!」

「皆吸うな!」

 祖父、そして周りの人間がバタバタと倒れていく。

 そして、私も……

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