第48話 王都⑥
ダミアンとナックルは一通り騒ぎ終わった後、手も足も出ない中でとにかく耳を澄ませることに集中した。
妖精であるナックルは、ダミアンの何倍も感度の高い聴力を誇っていた。そんなナックルがある時、驚愕で目を見開く。
『おいおい、マジかよ……』
『どうしたの?』
『すぐわかる』
ナックルはダミアンにそう語りかけ、牢屋からわずかに覗ける隣の部屋の方へあごをしゃくった。
まもなく、そこに歩いてきた異形の人影が見えた。普通に二足で歩いているのに、頭部がヒョウかチーターのような、猫科の猛獣のように見える。
『ウソ! あれってまぞくじゃないの?』
『ああ、なんでこの世界に魔族がいるんだ……まったく、ザルな封印しやがって』
「このガキどもがジャックの連れか。よくやったねぇ、ガンジス」
「ありがたき幸せ。まさか貴方が来られるとは……ジャイギー公」
ガンジスの声に、わずかながらさっきよりも緊張感が走っていた。
「ほとんどは計画通りに進んでおります。剣の封印はもはや解けました。ジャックが封印を引き継ぐことになったのは我々の手落ちですが、逆にジャックさえ仕留めることができれば……」
さっきまでガンジスと話していた、もう一人の声もした。
「そうよ。これくらいで諦めるわけにはいかないわ……気が遠くなるほどの間待っていたかいがないもの。でも実現されれば、60年越しに本懐が遂げられる……」
その魔族は、そのケモノ顔からは想像もできないような妖艶な声だった。
『そういうことか……』
『なに?』
『封印を突破したわけじゃない。こいつらは前の大戦の時からずっと、ガルーアにいたんだ』
『60年も!? 気づかれたりしなかったのかな?』
『そんな話は聞いたことがない……だがこれで合点がいった。シンパにしてもやけに狂信的なやつが多いと思ったが、本物の魔族に心酔してるやつらなんだ』
『なるほど〜』
『まずいな……おっさん二人くらいならどうとでもなるかと思っていたが、魔族相手取るとなるとこっからどう脱出するか……』
『ねぇナックル』
『魔族は小手先の妖術じゃ破られるからな……ダミアンを連れてどこまで逃げられるか……そもそも何とかしてこの身体の痺れをとらないことには…….』
『ねぇナックル、ねぇってば』
『なんだよ、うるさいな。今考えてるんだよ』
『おしっこ』
『はぁっ!?』
『だからおしっこ。あの人たち全然様子見に来てくれないから言い出せなくて……』
『お前神の子だろうがぁ!』
『ママは人間なんだもん! トイレは普通に行くよ!』
『知らねぇよ! 垂れ流せ!』
『やだよ!』
激しい思い合いをしていた二人は、騒がしくなった階下に、しばらく気がつかなかった。