第47話 カラギール自治区③
敵の多くは自動小銃とカトラスで武装していて、黒くて長い布をターバンにして垂らしていた。
銃声の中、メイディとロマーナはためらいもなく前に出る。
二人とも素足に近いほどの薄い布でできた履物にも関わらず、弾道をも避けるかのような俊足で距離を詰めた。
この光景にはニック達ゼリナスの四人も目を丸くした。だがまもなく我に返ったかのように拳銃を抜き、物陰に隠れながら援護態勢に入る。
二人は集団の中央に入りこむことで、発砲を封じた。
メイディは敵がカトラスを抜く前に、普段から持ち歩いている自分の背丈よりも長い棍を振るった。顎や頚椎を狙い、確実に意識を奪っていく。
銃床で殴りかかってくる相手には、突いて距離を取った。すぐに細かい棒捌きで手と頭を弾いて無力化させる。
少し攻撃が止んだところで、メイディは棍を構えなおした。
ロマーナは突っ込んだそのままの勢いで一人を殴り飛ばした。
前蹴り、後ろ蹴り、肘。一撃必殺。十メートルは吹き飛ばされる。
周りの男達は距離を取り始めた。剣はすでに抜かれている。
ロマーナは拳と拳を胸の前でゴチンと合わせた。ニヤリと微笑む。
***
マリアと魔族の男は、街中の上空を飛び回りながら戦闘を続けていた。
そのとき、前方にはビルがあった。二人とも気付いてはいたが、一瞬でも隙を見せたら、斬られる。
二人には決定的な違いがあった。魔族の男は自らの背に生えた翼で飛行していた。
一方のマリアは、サムが造ったドローンだ。マリアの脳波を読み取って操作できるようになってはいるが、搭載しているAIには自動危機回避機能がプログラムされていた。
壁まで、あと1メートル。そのタイミングで、ドローンは急遽方向を変えた。男とは反対の方向へ、ビルの壁に沿って飛ぶ。
予期せぬ出来事に、マリアは体勢を崩しかけたが何とか持ち直した。しかしそのせいで、一太刀浴びてしまった。
パワードスーツが裂け、皮膚が露出する。しかし何とか、マリア自身は無傷で済んだ。
男の方は軽やかに壁を蹴って向きを変えたが、マリアを追いかけることはしなかった。
マリアは急いで、通信機に向かって呼びかけた。
「次にあいつがどの方向から来るかわかる?」
だが、サムからの返事はなかった。
「ねぇ、聞こえてる!?」
言いしれぬ不安に襲われたが、その気持ちを押し殺し、マリアは耳の中に入れた通信機を取った。
情報が得られない分、五感を研ぎ澄ます。
***
サムは得体の知れない気配を感じた。だがあらゆるセンサーが、そこには何もいないことを示していた。だが、何かいる。
サムは車椅子の車体に忍ばせた拳銃に手を伸ばした。
「おおっと、動くなよ」
サムの手が拳銃を掴む前に、何かがサムの首筋に突きつけられた……感覚があった。しかし、何も見えない。
『次にあいつがどの方向から来るかわかる?』
マリアから通信が入った。
マリアと交戦していた魔族は、ビルの屋上を越え、上からマリアを奇襲しようとしていた。
「ビルの反対側から来ると言え……正面から狙いに来ると……」
『ねぇ、聞こえてる!?』
「……」
「言え……」
サムはふぅっと息を吐いた。
「マリア、正面から来る。気をつけろ」
「それで良い……」
***
マリアは、男が上空から攻めてくることを察知していた。しかし見上げると、陽光の眩しさで視界が奪われる。
冷や汗が少し垂れた。
マリアは慣れない上方に向かって刀を構えた。次は死ぬかもしれないと思ったが杞憂に終わった。
一筋の稲妻が水平に走り、この男を捕らえた。ジャックだ。