第45話 ゼリナス自治区⑧
ブルースが目を開くと、そこはゼリナスのギルドの前だった。
「ブルースさん!? 戻られたんですか?」
中に入ると、ラスが驚いて声をかけてきた。
「あ、ああ……」
二度の越界に、ブルースの老いた身体はさすがに疲弊していた。酒場の椅子に、崩れるように座り込む。
「リリスちゃんとソラリスちゃんはどうしたんです?」
「まだ冥界だ……私は一足先に戻ってきた」
「そんな……大丈夫なんですか?」
「お互い、やらなければいけないことができた。そのためにわかれた」
「やらなければいけないこと? それは何です?」
「話は後だ。ニック、マット、ガイを呼べ」
「いません。数時間前に町を出たところです」
「何!? なぜだ?」
「カラギールに『ヴェロニス』の襲撃が。救援に向かいました」
「ならばジェイは? まだ戻っていないのか?」
「はい」
「何ということだ……よりにもよって拳銃の名手ばかり……」
「皆、貴方ほどじゃないですよ。どういうことです? いい加減教えてください」
「『二連撃ち』を仕込む時がきた。このままでは魔界の軍勢に対抗できない」
「確かにウチで準備した銃は効かなかったですが、『二連撃ち』の習得だってよっぽど非現実的でしょう。貴方以外、成功した人間はいなかった」
「俺ができたんだ。他のやつができたっておかしくない」
「無茶言わないでください。それに、時間もない。私も子どものときの記憶なんで曖昧ですが、普通の銃弾が効かないのはあんな怪物くらいでしょう? 人型の魔族には有効だったはずだ」
「その魔族のやつらはあんな化け物を何百匹も従えてくるんだぞ。俺が二連撃ちを編み出す前は、ジャックか冥界軍の救援を待つしかなかった。それでどれだけの犠牲が出たか……」
「ですがその四人はもうここにはいません」
「くっ……!」
ズゥゥゥーーン……ズゥーーーン……
「キャーーーー!」
妙な物音と、何人もの悲鳴が聞こえる。
「外が騒がしいな」
ブルースとラスが入り口の方に向かおうとしたときに、逆に人が飛び込んできた。ギルドのメンバーの一人だ。
「マスター、大変だ! デカい怪物が街を潰してる!」
「何だと!?」
二人が外に出ると、そこには前に『扉』で見た怪物とはまた違う、何ならそれよりも大きな怪物が街の建物を壊していっていた。
二人は驚愕の眼差しで、その光景を見た。
「間違いない……魔界の怪物だ。封印が解けたのか!?」
「いえ、ずっと監視をつけさせてますが、そんな連絡は受けていません……」
「ではなぜだ! 大戦以降あんな怪物は現れたことがない……」
「ブルースさん、あれを!」
怪物の頭の上に、牙のある象の顔を持つ大男がまたがっていた。
「まさか、魔族か!?」
「やはりそうですか……」
「魔族が御す怪物は厄介だぞ……知能の低さにつけこんだ陽動が通じない」
「よりにもよってこんな手薄な時に……」
「まったくだ……」
ブルースは拳銃を抜き、その銃身に目を落とした。