第44話 カラギール自治区②
「どうしたんですか? ガンジス殿では、何か不都合など?」
メイディが怪訝そうにジャックに尋ねる。
「あぁ……いや、私の勘違いであると良いんだが、あいつの行動には時々不審な点が見受けられてな。今までずっと目を光らせていたんだが……」
「何と! そんなこととはつゆ知らず、勝手なことをして申し訳ない」
メイディが頭を下げる。
「いや、良いんだ。言っていなかったからな。私が見ている限りでは怪しい動きはなかった。ナックルがいるんだったらそうそうまずい事態にはならんだろう」
鋭い警報音が響いた。
「ドローンが落とされている!! すごい数だ!」
サムが驚く。即座に、全カメラ映像を表示させた。
「C35区画だ!」
そこには、カメラでも捉えきれないほど凄まじい速さでドローンを落としていく黒い影が。
『今向かってる!』
すかさずマリアからの通信が入った。
「気をつけろ! 得体が知れない!」
サムはタッチパネルを操作し、高速で場面が動く映像を映し出した。
「これはマリアのパワードスーツにつけているカメラだ。これで何が起こっているかわかるだろう」
***
マリアを運ぶドローンは、最大速度を維持していた。
つい今も一台壊された。目と鼻の先に"それ"がいる。ぞくっとした。只者ではない。
刀で斬りかかると、"それ"はくるりと身体の向きを変え、同じく刀で擦り合わされた。
『魔族!?』
マリアの耳に入れた通信装置から、ジャックの驚いた声が聞こえてきた。
目の前の敵は、全身真っ黒でくちばしと羽根があり、まるでカラスのようだった。だがしっかりと手足もあって、両手で刀を握っている。
高速飛行をしながらの激しい鍔迫り合いの中、切れ上がった細い目で睨みつけてくる。
(これが魔族か……!)
マリアはひしひしと、魔族のとてつもない腕力を感じていた。サムが作製したパワードスーツがなければ押し負けてしまっていただろう。
身が離れた二人は、スピードを維持したまま何度も斬り合う。一度も有効打のない、互角の攻防だ。
***
「どういうことだ!? なぜ魔族が!」
ジャックは驚愕の表情でモニターを見つめていた。
「封印が緩んでたときに出てきたとかじゃねぇの?」
ロマーナが呑気そうに言う。
「いや、あそこまで弱っていたとはいえ、あの剣の電流網を抜けるのは地獄の苦しみのはずだ」
ジャックは即座に言い返した。だが明らかに、動揺が隠せていない。
「だけどあいつがいるってことは、他にも出てきたやつがいるってことじゃないのか?」
「いや、そんな話は聞いたことがない……」
ジェイとニックが端の方で真剣そうに言い合っていた。
「そんなのは今ここで考えてもわからないよ。さ、それよりまずいよ。ドローンが落とされたせいで、また騒がしくなってきた」
サムが再び、全映像を分割表示させる。
止んでいた銃声と、鬨の声が再び聞こえはじめた。
「まずいな。もともとそのつもりだったんだ、私達も行くよ、ロマーナ」
メイディの声とともに一斉に準備に動くゼリナスの面々。
「すまない。助かるよ」
「私はマリアの助太刀に入ろう」
「よし、じゃあドローンを出そう」
「いや、必要ない」
ジャックの身体を、青白い雷が包んだ。