第40話 コルド遺跡②
「世界がもう一つある? 本当か?」
「わからん。アルハンブラなら知っているかもしれんな……煙玉はもうない、ダミアンと合流したら急ぎ聞いてみよう」
ジャックはそう言ってから、今度はその部屋を調べ始めた。だが本が置かれた台座以外には何もなかった。台に細工もないようだ。本はもう完全に朽ちてしまった。
「この部屋はなんだ? 他に隠されていた部屋は?」
「ない。俺が調べた限りでは」
わずかな物音がした。ジャックしか気付けないような小さなものだ。とっさに灯りを消し、部屋の入り口そばにはりつき、外を伺う。
異変を察知したジェイも拳銃を抜いて反対側へ。
「どうした?」
小声でジャックに尋ねる。
「男が七……いや八人」
松明を片手に、壁画のある広間に入ってくる人影があった。
「ジャック・シュヴァルツはどこだ……表に車はあったがな。外か?」
「大体俺達にあの男をどうしろっていうんだ。やはり問答無用で爆撃して埋めるしかないんだ」
「ダメだ。あの方は遺跡が失われるのは嫌がっている。それは最後の手段だ」
「ふん、全滅しちまったらどうにもできんだろう。ただの犬死にだ」
「あんたを探してるようだな」
ジェイが苦笑いする。
「そのようだ。あのタトゥーは『ヴェロニス』だな」
「よく見えるな。この暗さじゃあ俺は狙えそうにない」
「構わん。私が片を付ける」
ジャックはそう言った直後、七十代とは思えない俊敏さで部屋を飛び出した。
一人の男が構える青龍刀の柄を掌ごと掴み、それを軸に回転した勢いで後ろ蹴りを放つ。喰らった男が持っていた小銃が飛んだ。掴んでいた敵の手を捻り、遠心力を利用して投げ飛ばす。ここまでわずか2秒。
その後もジャックは一人ひとり的確に武装解除と無力化を行っていく。
全員を制圧するのに、1分もかからなかった。
「なんでジャックさんを狙ったんだーおい?」
拘束され、転がった敵の一人の頬を、ジェイがペチペチと叩く。
「ふん、貴様を阻止するのは我々の至上命題だ」
その男がジャックを憎々しげに見つめる。
「だからって今のタイミングで急に狙ってくるとはどういうことだ?」
ジェイが男の鼻先に銃口を突きつける。
「ふん、お前たちが一番よくわかっているだろう……」
「なんだと!」
「落ち着け。おそらく封印が剣の力から私の魔法に置き換わったからだろう。私を殺せば、封印が解ける」
「こいつらもう察知したのか? 早すぎるだろう」
「監視していたのかもしれんな。あるいは……」
「何だ」
「いや、何でもない」
「おい、これ!」
男達の荷物を探っていたジェイが、遺跡の調査を続けるジャックを呼び止めた。
ジェイが見せた、男達が持っていた紙には『カラギール侵攻作戦』の文字が。
「これは……もう始まってるじゃないか。それも何だ、この戦力の割き方は」
「ああ。カラギールはここから近い。助けに行こう!」
「うむ。どうせ奴らは私を探しているんだろう。直接乗り込んで、戦火が広がらないうちに鎮めよう」