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第37話 冥界②

「え……」

 アルハンブラさんは私を、やまなしあずさと呼んだ。

 正直言って、その名に覚えはない。

 ただ、妙にどこか懐かしい。そんな気がした。心臓の鼓動が自然と大きくなり、耳元で聞こえてくる。

「何を言ってるんですか? この子はリリスっていうんですよ」

 焦点が合わなくなり、視界と意識がぼんやりし始めた中で、ソラリスが代わりにそう答えているのを感じる。

 そう、私はリリス。

 でも実は、それについてもピンとは来ていなかった。あの時あのベッドで目覚める前の記憶が、私には一切ない。今までなんとなく周りに合わせて、ここまで旅を続けてきた。


 私は、リリス? それとも……


「いや、彼女は山梨梓だ。私が魂を移したのだ」

 え、どういうこと?

 ソラリスも首を傾げている。 

 アルハンブラさんが私の方に近づいてくる。

「まだ思い出せないか?」

「ちょっと!」

 ソラリスが私に寄り添って、盾になってくれる。

「魔界の封印が緩み始めるのと呼応するように、魔界のシンパ、『ヴェロニス』だったか……孫のリリスに魔力のこもった毒を盛った。その毒は魂を、身体の奥深くに封じ込める。せめて死んでくれたらよかった。死んで魂が肉体から離れたら、私の力ですぐに戻すことができたが、その逆だったからな。そんな時、山梨梓が事故に遭った。私は彼女の魂をリリスに移した」


「……!」

 私達はしばらく、理解が追いつかなかった。


「どうして……そんなことをしたの?」

 少し経って、そんな言葉を私はようやく絞り出した。

「リリスが封じられたらジャックにも想定以上のダメージが行く。新大陸行きにも大きな影響が出ただろうな。それにリリスにとっても劇薬になる。助かる方法はこんなことくらいしかないだろう」

「それでは世界とリリスを救うためにやったと?」

 ブルースさんはまだ疑わしげだ。

「そうだ。私だってお前達の想像以上に世界の安寧については考えているということだ」

「私は……やまなしあずさは死んだんですか?」

「一命は取り留めた。今も病院で眠ったままだ。脳死判定が出ないようには細工しておいた」

 その言葉を聞いて、なんとなく安心感は湧いてきた。

「……そもそも、なんで私が?」

「リリスと君は対になる存在。同位体だ」

「同位体?」

「山梨梓が住む世界は『ポリアス』。リリスが住む世界は『ガルーア』。下位世界としてこの2つは、対となる関係だ」

「にわかには信じ難い話だな……まだ俺達が知らない世界があったとは」

 ブルースさんが口ひげを撫でながら呟く。

「ポリアスは特殊でな……今まで他の世界とほとんど関わりを持ってこなかった。まぁそこの死者もウチが引き受けてるからそれくらいか。ポリアスでは歴代冥王のことはハデスやら閻魔やらと呼んでいるよ」

「そんなことは良いんです! リリスは……私達はどうすればいいんですか!」

 ソラリスが焦れったそうに叫んだ。

「封印用の剣を手に入れたければポリアスに剣を取りにいくことだ」

「どうやって? お前が俺達をそこまで飛ばしてくれるのか?」

「剣の場所が分かれば、その目の前まで空間の穴を開けてやろう」

「剣の場所はお前も知らないのか」

「他の世界の事情までは知らん。昔はエジプトやらメソポタミアの文明が奪い合ったり、スサノオが所有していたり、秦の始皇帝が国を統一するために使ったりとかは聞いたがな。最後に聞いたのは……アーサー王か」

「何を言っているかはさっぱりわからんが、要はわからんのだろう?」

「でも……そんな戦って世界をどうこうしようなんてことはなかったと思います」

 段々と思い出してきた。

「そうだな。今、ポリアスの覇権を握るには経済戦だ。世界全体を巻き込む戦はしばらく起きていないし、剣など使って戦をする文化はとうに断たれた。それほどまでに力を持った剣があっても、誰も使おうとは思わんだろう」

「つまりは?」

「わからん。だがまぁ誰も使ってはいないだろうな」

「全く知らん世界でなんの当てもなく剣を探せと? 随分勝手なことを言ってくれる」

「勝手はどっちだ。自分の世界以外の剣まで当てにしよって」

「なんだと!? 魔界が攻めて来ようとするのが悪いんじゃねぇか!」

 ブルースさんの手が腰に差した銃に伸びる。アルハンブラさんも動きこそなかったが、一気にオーラが変わった。

 あまりの迫力に、私もソラリスも何も言えずに縮こまった。だが、メリルさんだけ平然としている。

「ねーえぇ、やめなさいよ。そんな意地の張り合いで争うのは。二人ともまだまだ子どもねぇ」

 さっきまでブルースさんをいたずらに攻撃してきた人とは思えない。

「ちょっと! 聞こえてるわよ!」

 メリルさんが私をキッと睨む。口には出してなかったのに……

 だが、メリルさんの言葉でアルハンブラさんもブルースさんも、自然と落ち着いたようだった。

 

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