第33話 ゼリナス自治区⑤
全員で酒場に戻ってからも、一行の間に流れる陰鬱な空気が晴れることはなかった。
レベルの違う魔界の怪物に、祖父とブルースさん以外皆唖然とし、さらに、疲弊していた。
私は祖父を連れて、二人外に出た。
「あれは一体どういうことなの? ずっとあの剣が魔界を封印してたってこと?」
「そうだ」
祖父が私の目を見据える。
「あの剣は数万年前から伝わる、伝説の五本の剣の一振りで、強大な力を持つ。私はかつて、あの剣を手にしたことによって勇者となった」
「それを封印に使ってたってこと?」
祖父はうなずいた。
「魔界の侵攻に対して私達は全軍で迎え討ち、扉の向こうまでは押し返したが、いかなる手を使っても扉を完全に閉じることはできなかった。曲がりなりにも蓋になれるほど膨大なエネルギーを持ったものは、あの剣だけだった」
「他の剣は? 全部で五本あるんでしょ?」
「存在が確認しているのは四振り。『勇者の剣』の他はエラボルタが持つ『王家の剣』、アルハンブラが持つ『冥王の剣』、魔界の王が持つ『魔王の剣』だ」
「え、じゃあなんで五本目があるってわかるの?」
私はシンプルな疑問を口にした。
「ふむ……古くから伝わる碑文や壁画には五本目の存在が記されている。だが、詳細は全く分かっていない。多くの人間が長年探してきたが……」
「そうなんだ。でも他の剣の場所が分かってるんだったら封印には他の剣を使えばいいんじゃないの? エラボルタ王なんて、持ってって良いって言ってくれてたじゃない」
「そうするしかないな……だが、王都に再び行くには、ナックルが必要だ。再封印のせいで、私にはもうあの距離を高速移動する魔力は残っていない」
「じゃあ、冥王の剣?」
祖父は表情を曇らせた。
「アルハンブラがそうやすやすと剣を使わせるかどうか……勇者の剣以外は全て、権威の象徴。皆あの剣を持っているから、王なのだ」
「でも頼んでみるしかないよね。あ、でもこれもダミアンがいないから、無理なのか」
「いや、冥界なら、方法がないこともない」
そう言って祖父はジャケットの胸ポケットから小さな黒いボールを取り出した。
「『メリルの煙玉』。アルハンブラの妻のメリルは魔女で、古い仲だ。昔からずっと、新居には招待され続けている。いつまでも新婚気分のイチャつきを見せつけられるだけだから、応じたことはないが」
ああ、そういえばアルハンブラさんもそんなことを言っていたような……
「じゃあ冥界には行けるってこと!?」
「いや、私は行けない」
「え? なんで!?」
信じられない。事態は一刻を争うのに……祖父はまだ、変な意地を張るつもりか。
「そんな目で私を見るんじゃない。そういうことじゃない。扉の封印中にこの世界を離れられないだけだ」
あ、そういうことか……
「じゃあ、私が行く」
私はパッと振り返った。そこにいたのは、ソラリスだった。