第32話 ゼリナス自治区④
裂け目を端からそろそろと降りていくと、そこには空洞があった。その先に光の渦の下半身が見える。
銃を構えたおじさん達と一緒におそるおそる近づいてみてようやく気付いたが、その光の渦には、細い糸のような電流の筋が蜘蛛の巣のように張り巡らされていた。
そしてそれらの線は、全て一ヶ所から放出されている。その渦より手前、そこだけ不自然に四角く切り出された背の低い岩に、剣が刺さっていた。そこだ。
「もしかしてあれが……」
「そう、勇者の剣だ」
答えたのは、ブルースさんだった。あれ、祖父は?
祖父は何も言わずに、少し焦ってその剣に駆け寄っていた。剣の前にひざまずいている。
その剣はよく見たら、もうボロボロだった。半分石? になっているような感じがする。
「苦労をかけたな……」
涙声だった。
祖父が剣のつばの部分を撫でると、勇者の剣は遂に、砂になって朽ちていった。まるでその役目を終えたかのように。同時に、電流も尽きる。
「おお、お……」
祖父はその場に手もついて、慟哭した。
聞いたこともないような音量の咆哮が聞こえた。
「今のは?」
私達は全員、咄嗟にその光の渦の中を見た。そこには、大きさは何十倍にもなるが、ライオンをもっと醜くしたような怪物が今にもこっちに襲いかからんと走ってきていた。おじさん達が全員銃を構える。
「ねぇ! もしかして今って封印が」
ソラリスが言う。私も、同じことを考えていた。
「ジャック様! 危ない!」
ガンジスが叫ぶ。怪物は今にも、祖父に喰らいつこうとしていた。だが祖父は顔を上げようともしない。
「お前たち、撃て!」
ブルースさんの号令で、怪物に集中砲火が浴びせられた。だが、一向に効いた様子がない。怪物は、止まらなかった。
怪物の牙が、祖父まであと数メートルのところまで迫った。
祖父はようやく顔を上げた。右掌を再び力強く地面に衝く。
さっきまでとは比べられないほど太くて勢いのある網目状の電流が、盾となって怪物の攻撃を防ぎ、渦の方へ押し戻した。
その網はそのまま渦全体にかかり、再び封印が復活した。祖父はいつも使っているステッキを、剣が刺さっていた横に突き立て、新たに電流のハブとした。
「これは私自身の魔力を使っている。長くは保たん」
祖父はそう言って立ち上がった。
「戻って対策を練り直そう。俺の自慢のコレクションも、歯が立たんかった。今戦争はできん。何より、こいつらがビビっちまった」
ブルースさんが他のおじさん達を、親指で差した。全体的に、悲壮感が漂っている。
私も衝撃だった。だって魔界には、あんなのがゴロゴロいるんでしょ?