第27話 アマゾニアス⑤
瘴気を吸ったその生物の身体が、ムクムクと膨れ上がった。元々白に近い灰色だった皮膚も、赤黒く変色している。
「これはっ……!」
アラネスはまだしも、戦士達やガザリーナさんまで、その光景を見て絶句した。
その生物は明らかに苦しんでおり、自ら頭を岩や木にぶつけるなど暴れ始めた。
「おい! あれの対処法は!?」
アラネスが叫ぶ。
「今のところ眠らせるしかない。治療法もまだない」
祖父が答えた。彼女達は再び絶句する。祖父はこちらに目を向けた。
「ガンジス、買っていたリンネイ草の花は?」
「あ、船の中です……」
「ほらよ」
ナックルが花を祖父につきだした。瞬間移動を駆使して取り寄せたようだ。
祖父は難なく、魔物と化したその生き物を眠らせた。
***
「本当に治せないのか? この子のパートナーのエミリンが悲しんでいる」
ガザリーナさんが祖父に尋ねた。
その生物は今、村にある石台に横たえられていた。苦しそうな寝顔を浮かべている。
戦士とパートナーを組み、戦闘に臨むパイアスという種類の動物らしい。
しばらく黙った後、祖父はダミアンを見た。
「可能性があるとすれば……一つ」
ダミアンは目をそらした。
「死神の力を使えば、瘴気だけをうまく除去できるかもしれん。言ってる意味はわかるな? ダミアン」
ダミアンは答えず、俯いた。
「それって、前にちょっと言ってたこと? どうやるの? それ」
ソラリスも、ダミアンの方を向いた。その声はいつにもまして真剣だった。
「うーん、でもやったことないから……」
ダミアンの返答は煮えきらない。
「大丈夫だ。誰だって最初は初めてだ。むしろ今のような落ち着いて試せる状況があるだけ、相当幸運だぞ」
傍目からも、ダミアンの心が少し動いているのが見て取れた。私は隣りにいたガンジスの腰をそっと押した。ガンジスはちらりと私を見てから、口を開いた。
「あのー、ダミアンくん。ぜひ挑戦してみてくれないか。今この世界には、魔界の瘴気にやられて苦しんでいる人間やモンスターが沢山いる。あっしの友人もそうだ。一刻も早く治してやりてぇ」
ダミアンはようやく顔を上げた。だがその目はまだ不安げだ。
「ねぇ、ダミアン」
ソラリスがダミアンの両肩に手を添えた。そして自分より低いダミアンの目線に合わせる。
「私の父も、瘴気がきっかけで亡くなった。これは大勢の命の問題なの。私は救いたい。私と同じような思いをさせたくない」
ダミアンが、ソラリスの目をしっかりと見返した。
「うん。わかった。ボクやるよ。きっと成功させてみせる」
***
ダミアンによる治療・蘇生は難航した。その間に船の修理が終わり、ブラック船長達クルーと乗客は皆旧大陸に帰っていった。
そこからさらに数日、神殿のすぐ横の家を貸し与えられていた私達のもとに、ダミアンが完全に元通りになったパイアスを連れて戻ってきた。
「ダミアン!? もしかして……」
「うん、成功したよ」