第25話 アマゾニアス③
鬱蒼と茂った木々の中でも、その古めかしい石造りの建物は、燦燦とした日光を浴びていた。
その周囲に広がる街並みも全て同じように、小さなブロック状の石を積み重ねて壁としていて、今まで見てきた王都やモワールとはまた全然違った雰囲気だ。
祖父から聞いた通り、ここには女性しかいなかった。皆胸元と腰回りしか隠さない恰好で、自然と共に生きている。そんな感じだ。
街の中央の道を通って、そのまま神殿へ。周りの女性達のほとんどが、歩みを止めてこちらを見る。
ガザリーナさんを先頭に、私達は神妙な面持ちで神殿の中に入った。洞窟の入り口のような、小さくて真っ暗な穴に入りこんだらその中は、ところどころ陽光が差し込む神秘的な雰囲気だった。
戦士と思しき女性たちがハの字に並んだ奥に座っていた人を、皇帝と紹介された。
驚いた。そこにいたのは、私やソラリスとほとんど年齢の変わらないような少女だったからだ。健康的な褐色の肌に、特徴的な銀髪。自然由来の素材ながらも、きらびやかな装飾品。
ガザリーナさんと祖父に倣って、私達も軽く腰を下げ、優雅にお辞儀をする。
「ガザリーナ、そやつらは何者じゃ。誰が通して良いと言った。それも男を! あと船が停泊しているとも報告を受けておるぞ!」
「失礼を、皇帝陛下。この男はアタシの、ひいてはアマゾネスの旧き友です。六十年前我々は彼とともに戦い……彼のおかげで救われました」
「ほう……その男が勇者か」
皇帝陛下が、目を細めて祖父を見る。
「お初に、皇帝陛下。ガザリーナには昔、世話になった」
「勇者がなぜここにいる?」
「皇帝陛下、世界に再び危機が迫っている。新大陸へ、魔界の封印を締め直しに行かねばならない。妨害を受け、ここにたどり着いた。『バルサイ』を使わせてほしい」
「ダメだと言ったら?」
「なぜだ? 魔界の封印が解かれたら、この島へも危険が及ぶ」
「冗談だ」
皇帝陛下はフフ、と笑った。
「アラネス!」
私の横から、一喝するような鋭い怒声が飛んだ。驚いてそっちに目をやると、その声の主がガザリーナさんであることがわかった。
「皇帝の言葉の重みをあれだけ教えただろう! 冗談など絶対に口に出すな!」
急いで視線を戻すと、皇帝陛下は狼狽えた表情で、ワナワナと全身を震わせていた。
「だってー! すぐに了承したら威厳が無いと思ってーーー!」
私はさらに驚いた。皇帝陛下、もといアラネスは急に頬を膨らませ、足をバタバタさせながら、そう口にした。
「威厳は態度で示せ! 駆け引きなんぞで示そうとするな!」
「おぬし! 皇帝にそんな口を利いてよいと思っておるのか!」
「今更遅いわ! 威厳は常に保っておれ!」
「ひいぃ……」
ガザリーナさんのあまりの剣幕に、アラネスはあっけなく縮こまった。
「外せ……」
ガザリーナさんはため息をつきながら、困って顔を見合わせる戦士たちに声をかけた。出て行く戦士たち。
***
「ねぇーえ! やめてよ《《おばあちゃん》》! 人前で私の顔を潰すようなことは!」
おばあちゃん!? そういえばどこか面影があるような……
「そうか、新たな皇帝は君の孫だったか。アマゾネスの帝位については詳しくないが、世襲制だったかな?」
「素質があるのが前提だけどね。この子もやる時はやる子だよ」
「えへへ〜〜」
良い笑顔。
「調子に乗るんじゃない!」
「はぁい」
またシュンとする。感情豊かで、素直な子のようだ。
「この子の母親は?」
アラネスとガザリーナさん両方が、急に真面目な顔つきになった。
「この子の母親……アタシの娘でもある先代皇帝は一年前に亡くなったんだよ。それで、この子が皇帝になった」
そうだったんだ……
「ジャックさん!」
そのしんみりした空気を、一つの声が破った。ブラック船長が神殿に入ってきた。
「『ヴェロニス』のやつらが逃げた!」