第24話 アマゾニアス②
やがて、森の奥から浅黒い肌の、年配の女性が現れた。この人も露出が多い格好だが遠くから見ても、その身体が鍛え上げられているのがわかる。
「久しいなガザリーナ。君は大ババ様と呼ばれてるのか」
祖父が笑いかける。
「うるさいよ。アンタ達何しに来た。あんなデカいのまで引き連れて」
「助けてほしい」
祖父は真面目な顔つきになった。船を指差す。
「エンジンが壊れた。ここから旧大陸まで保たせるための、食糧と物資を分けてくれ」
「今の状態だとここから旧大陸まで10日程だ」
横からブラック船長が言い添える。
「バカな。あんなデカい船を賄える物資など、この島にはないよ。何人乗ってるんだいあれ」
ガザリーナさんは鼻で笑った。
「すまない。無理は承知だ。ここまで来るだけでもやっとだった」
「ウチだって無いものは出せないよ」
「だが我々だって、このまま戻るわけにはいかないんだ」
「どうしよう・・・ 大丈夫かなぁ」
他の乗客達も甲板から、固唾を呑んで見守っている。
「直せばいいんだろう? それで全てが解決する」
しばらく間をおいて、ガザリーナさんはそう言った。口元には笑みが浮かんだままだ。
「できるのか?」
「私はできないが、若い衆ならできるだろう。孤島とはいえ、アマゾニアスを見くびるなよ?」
***
船に乗り込んできた女性達は、ガザリーナさんや最初に見た二人と同じように野生味溢れる極小の着衣だったが、ガレキだらけの機関室で、ブラントさん達機関士や整備工の人達と聞いたこともないような単語で会話していた。
私達も祖父に誘われ、ようやく船を降りることができた。なぜか、荷物をまとめろと言われた。
透き通った海と、白い砂浜が心地良い。久々の地面に変な感じがする。
「孫のリリス、友人のソラリス、付き人のガンジスだ。ダミアンはアルハンブラの息子だ。ナックルは・・・」
「妖精だね、珍しい。この島にはいないからね」
ガザリーナさんが興味深そうにナックルを見た。
「この島にどこまで情報が届いているかは知らんが、魔界の封印が緩んでいる。我々は急いでそれを締め直しに行かなければならない」
「だからウチを舐めるなって。それくらい掴んでる。アンタが動き出してることもね」
「ならば話が早い。ここで補給ができないのであれば、エンジンが直っても旧大陸に戻るしかない。私達は一刻も早く、新大陸に行く必要がある。『バルサイ』を使わせてくれ」
ガザリーナさんがため息をつく。
「言うと思ったよ・・・ あれはウチらにとっても貴重な移動手段だからアタシの一存じゃ出せない。皇帝の許可を得ないと」
「もう君が皇帝じゃないのか。前回の戦いの後、即位したと便りをくれたじゃないか」
「もう退位したよ。何でも若いのがやった方が良い」
「君はまだまだ引退するような齢じゃないだろう」
「その話は良いんだ。さぁ、神殿へ行くよ」
ガザリーナさんが歩き出した。
***
森の中を歩いている途中で、二人の人物が私達の前に現れた。祖父を最初に急襲した二人だ。
「大ババ様、本当にこいつらを神殿まで連れて行く気ですか?」
明るい茶髪をポニーテールに結んでいる方の人が、厳しい目つきでガザリーナさんを見る。
「メイディ、この人達は良いんだ。このジジイはアタシと旧知の間柄だからね。大戦で共に戦った仲さ」
「ですが!」
「しつこいよ。責任は、アタシが取る」
それからは、この二人も私達に随行した。
「ごめんねぇ。この二人は警備隊だから、ピリピリするのはしょうがないのさ」
ガザリーナさんが、主に私とソラリスに説明してくれる。
メイディと呼ばれた人はまだ警戒を解いていないようだったが、もう一人の、ミディアムくらいの黒髪を波打たせているロマーナさんという人は、私達ともすぐ打ち解けた。笑顔がステキな人だ。でも、この人が拳の勢いだけで砂浜に大きなクレーターを作った人だった。
「さぁ、ついたよ」
眼の前に広がる光景に、私は息を呑んだ。