第23話 アマゾニアス①
あれからまる四日間の航海を経て、定期船はただでさえ遅いスピードをさらに落とした。
私達が甲板に出ると、そこにはこの船よりははるかに小さな、緑がいっぱいの島がそこには見えた。快晴の空に映える。
だがそんな島でも、船の主動力の不具合で予定通りの航行ができなくなったと知らされ、無事に生還できるかもわからない乗客達の不安を少しは和らげたようだ。歓声が漏れる。
小舟が出された。ブラック船長と祖父が乗っている。
「お前達は来るな」
言い募る私達にそう告げてから、いつになく険しい顔つきで祖父は島に向かった。私達は、遠くから見守るしかない。
小舟が岸に着き、ブラック船長が砂浜の上に引き上げている最中、祖父が島の奥に向かって何かを呼びかけている。
「おい、誰かいないか。話がしたい」
横から声が聞こえてきた。見るとナックルが頬杖をつきながら祖父が発しているであろう言葉を復唱している。
「すごい! 読唇術?」
「妖精ナメんな。あれくらい普通に聞こえる」
「ねぇ、あれ!」
ソラリスが祖父たちの方を指差す。見ると、あの二人に向かって、森の奥から何かが弧を描いて飛んできているのが見えた。矢だ。
「危ない!」
だが、祖父が慌てた様子はなかった。ステッキを目の前に掲げると、その先から青白い電撃が網をかけるように放たれた。全ての矢がその電流に撃ち落とされる。
その後しばらく、何も起こらなかった。
「ねぇ何あれ! いきなりあんな攻撃を・・・」
「ね、ちょっとちょっと!」
ソラリスが私をペシペシと叩きながら、再び私の視線をあっちに向ける。
ものすごい勢いで、二つの人影が森の中から飛び出してきた。目を凝らすと、それが女の人であることが分かった。随分と露出の多い格好な気がする。
一人は、長い棒を持っていた。それを振り回して、祖父に襲いかかる。
祖父は最初の一撃を頭を引いて避け、その後はステッキで擦り合わせる。
二人が戦闘を繰り広げている中に、もう一人の敵が特攻した。軽く飛んで拳を頭上から祖父に振り下ろす。祖父は難なく避けたが、拳が叩きつけられた砂浜が大きく凹んだ。なんて威力なの!?
祖父は動じることもなく、今まで見たことないほどの速さの後ろ回し蹴りで二人目を弾き飛ばした。
一人目は驚いたようにその様子を見ていたが、すぐさままた祖父に向かっていく。振り下ろされた棒を、祖父はガシッと掴んだ。
「君らじゃ話にならん。ガザリーナを呼べ。いるんだろう?」
「大ババ様を? お前何者だ!」
祖父は苦笑した。
「おいおい彼女は私より年下のはずだろう。ジャックとブラックが来たと、そう言え。私達を攻撃するのはそれからだ」