第22話 大海洋(The Great Ocean)⑥
爆発は、機関室の方で起こったようだった。船全体に影響が出るような規模のものではないが、ここからでもバックヤードから出る黒煙と炎が見える。
ソラリスは!?
私は急いで辺りを見回した。しかしその姿はない。
「うそ、でしょ・・・」
バックヤードに行ってと言ったのは私だ。私は、ソラリスを死に追いやってしまったかもしれない。
「ソラリス! ソラリス!」
バックヤードに入っていこうとする私を、祖父が腕を掴んで止める。
「放してよ!」
「よせ、危険だ。私が行く」
そんなときだった。
「うぉーー、間一髪だったぜぇーー」
ナックルがソラリスとブラントさんを連れて、目の前に出現した。
「二人連れての瞬間移動がこんなにつらいとは・・・ 危うく時空の狭間から戻って来れないところだった」
「ソラリス!」
私はソラリスに抱きついた。
「俺達は無視かよ!」
ナックルが、苦笑しながら吼えた。
少し落ち着いてから、ソラリスは話し始めた。
「やっぱりあいつらが蒸気機関に細工をしてたらしくて、ギリギリまでブラントさんがどうにかしようとはしてくれてたんだけど・・・ そしたらナックルが来てくれて。ありがとう、ナックル」
座り込んでいたナックルは手をちょっとだけ上げて、返事に代える。
「おい、これは一体どういうことだ?」
さすがの緊急事態に、ブラック船長もすぐに駆けつけた。一等航海士のダンさんも一緒だ。
「曲者が船を爆破しようとしていたそうだぞ」
祖父が、まだ意識のあった敵の一人を拘束し、ブラック船長の前に突き出す。
「私が、間違っていたのか・・・」
ブラック船長が愕然とする。
「何とか他に延焼しないようにはしましたが、主動力は完全にやられました。今動いているのは、補助動力だけです」
私の横から、ブラントさんが補足説明する。ブラック船長は頭を抱えた。
「なんてことだ・・・ 今の船の位置だと、補助動力だけでは新大陸はおろか、旧大陸に戻るのでさえ物資が保たんぞ。食糧もだ」
え? ということは、私達はこの大海原で立ち往生するってこと?
「唯一望みがあるとすれば・・・」
「アマゾニアスだな?」
ブラック船長の言葉を、祖父が引き取る。
「いや、だがもう何十年もあそこを訪れたことはない。あまりに非現実的だ!」
「しかし手が他にないのだろう?」
「仮に見つかったとて、協力してくれるとは限らない・・・」
「気難しい部族だが、話せば分かる連中だっただろう。もう迷ってる場合ではない」
「あのー、アマゾニアスって?」
二人の会話が落ち着いた頃、私は恐る恐る聞いた。
「この大海洋で、唯一存在が判明している島だ。そこにはアマゾネスという女性だけの戦闘部族が住んでいる。昔まだ新大陸への航路が確立していなかったとき、私とブラックは一度流れ着いたことがある」
「そこで補給を頼んで、旧大陸まで戻る。それが我々が生き延びられる唯一の方法だろうな」
ブラック船長はもう冷静さを取り戻していた。
「ですが、我々航海士の中でアマゾニアスへの航行経験があるものはいません。自動操縦のルートにも入っていません」
ダンさんがそう進言する。
「アマゾネスは外部からの来訪者を好まない。かつて何人かの血が流れた後、互いに干渉をしないという協定が結ばれた。もう五十年以上、交流はないはずだ」
祖父が私達に説明してくれる。
「心配するな、私が舵を取る。何としてでもたどり着かせるさ。行くぞ、ダン」
ブラック船長とダンさんがこの場を去る。
「私が星を見よう」
祖父もついていった。
***
ガンジスが苦戦をしながら、何とか犯人全員を縛り上げた。
犯人は魔界のシンパ組織『ヴェロニス』。勇者である祖父が、魔界の封印を締め直すために新大陸に渡ることを聞きつけ、それを阻止するためにこの事件を起こしたらしい。
こいつらの目的は、達成されたわけだ。