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第21話 大海洋(The Great Ocean)⑤

 祖父は私達を客室に残し、一人で出ていった。単独で、船内を大捜索するそうだ。

 夜が明けても、祖父は帰ってこなかった。

「ねぇ、やっぱり私達にも、何かできることあるんじゃないかな」

 私はとうとう、こらえきれずに口を開いた。じれったくて、たまらなかった。

「ダメですよ、危険ですから。ジャック様に任せておけば大丈夫です」

 ガンジスも、今は私達と同じ部屋にいてくれている。

「だって最初に巻き込まれたのは私達だし! 私達にも何かできることがあるんじゃないかな、と思って」

 そう言い募る私に、ガンジスは困ったような顔を向ける。

「でも・・・ なんであいつらは機関室を占拠しようとしたんでしょうか・・・」

 ソラリスがそう呟いた。確かに。今まではあまりに必死で、そんなこと全然考えていなかった。

「機関室にあるものは全部この船の動力そのものですから、あそこに入り込まれたのは実を言うとだいぶまずいんです。燃料の補給は機械で自動化されてますが、アタシだってそろそろ戻らないといけない」

 捕まっていたおじさんは、まだ私達の部屋にいた。おじさんは機関室の管理人だった。名前は、ブラントというらしい。

「でも機関室だったら、相当よからぬこともできるよね・・・」

 一同の間に、沈痛な雰囲気が流れる。


「やっぱり行こう! 私達が行かないといけないと思う!」

 意を決して、私は言った。

「いやいや、ダメですよ! 危険ですから!」

 ガンジスが焦る。だが、今回は折れる気はなかった。

「でも機関室に何か細工をされていたら? この船全体に危険が及ぶかもしれない」

「そんなものがあったらきっとジャック様やブラック船長がすでに見つけているはずです!」

「もししてなかったら?」

 ガンジスは黙り込んだ。

「申し訳ないけど、この緊急事態に、私は誰も信じられない」


      ***


 部屋を出ると、早朝だからか乗客も少なく、閑散としていた。たまにスポーティーな格好でランニングをしている人がいるくらいだ。その静けさに、少し拍子抜けする。

 私達もそおっと、通路を進んだ。


 バックヤードに入る手前くらいで、何かがぶつかるような、異様な物音が遠くの方から聞こえてきた。

 今私達がいるのは、船の中央の吹き抜けを囲む通路だった。5階だ。

 音のした方を見ると、吹き抜けを挟んだ反対側の通路、ワンフロア下で、あのとき機関室にいた賊と祖父が交戦していた。向こうは6人いて、狭い通路で祖父を3人ずつで挟んでいた。だが、祖父も負けてはいない。

 これはやはり異常事態が起こっている!

「先に行ってください!」

 私はブラントさんにそう言い放ってから祖父を見守った。ブラントさんとソラリスが、バックヤードに走っていくのを感じる。


 賊は、ダミアン達に突きつけていた先の曲がった剣を振るって、祖父を切りつけようとしていた。

「ありゃ青龍刀だな・・・」

 私の横でナックルが呟く。

 祖父は普段から持っているステッキで、両側から繰り出されるその攻撃を全て捌いていた。

 しばらくは膠着した状態が続いていたが、次の瞬間、戦況が大きく動いた。

 ステッキで刀の攻撃を受け、せり合っている状態で距離を詰める。十分近づいた状態で、祖父はわずかに動いて身体の軸をズラした。相手がよろめく。


 その相手を、祖父は頭に横から手を回し、壁に叩きつけた。そのまま相手の襟元をつかみ一緒に反転。反対側の賊に、相手の身体を斬りつけさせた。

 その隙に祖父の後方の敵には、腹に後ろ蹴りを放つ。


 斬られた相手はそのまま手すりを越えて投げ捨てられた。味方を斬って動揺している賊に、祖父はすかさずステッキで首筋に一撃を与える。よほど強い攻撃だったのか、その場に崩れ落ちた。

 しかし、祖父の後ろにはすでに、回復した賊が再び青龍刀を振りかざしていた。


「ジャック様!」

 私の隣にいたガンジスが叫んだ。祖父はその声が届く前に、手元への肘打ちと顎への裏拳で難なく敵を昏倒させていた。

 その代わり、ガンジスの声を聞いた残った3人のうちの1人が私達を見つけ、通路を廻って走ってきた。

 少しの間はフロアが違うと油断していたが、通路の途中には階段があった。

 え! ちょっと待って、これはマズい。

「どーしよ! どーしよ、どーしよ!」

 ダミアンが目に見えて慌てふためいている。

「ちょっと! あんた冥王の息子でしょ! どうにかしてよ!」

「だって今まではヤバいときはナックルが助けてくれてたから・・・」

 よく見たら、肝心なときにナックルはいなかった。

「ちょ、何でいないの!?」


 そんなことを言っている間でも、悪鬼のような表情で賊は迫ってきている。

「どーしよ! どーしよ、どーしよ!」

 しまいには、私もダミアンと同じことを口走っていた。

 そんなときだった。私達とその賊の間に、真っ白なクロスを引いたカートを押した船員が、鼻唄を歌いながら現れた。ルームサービスか!

 私はとっさにカートを奪って押しながら、賊の方に向かって全速力で走った。

「ちょっと!」

 と船員が吠えていたが、青龍刀を振りかざす賊に、すぐに腰を抜かしていた。


 私の方は、そのまま賊に突っ込んだ。賊の顔が歪む。

 2メートル近くあるカートの長さで、斬りつけられることもなかった。

 私は無我夢中で、カートの上のお盆と蓋を順番に賊に投げつける。中に料理が入っていたようだったが、構っていられない。

 だが、そんな攻撃など刹那の効果。すぐにカートを弾き飛ばし、賊は迫ってきた。青龍刀を振り上げる。


 もう何も考えられない。私は目を瞑った。


 だが、なんの痛みも感じなかった。そおっと目を開ける。そこには祖父が立っていて、賊が倒れていた。

 対岸を見る。向こうでも、もう立っている者はいなかった。


「よく立ち向かった。偉いぞ。この世界の未来は明るい」

 祖父はそう言って、いつの間にか座り込んでいた私に手を差し伸べた。


 その時だった。爆発が起こったのは。

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