第20話 大海洋(The Great Ocean)④
「何だ、どうしたんだ!?」
いきなり飛び込んできた私達に、祖父は立ち上がった。
「機関室に、悪いやつらが・・・ この人が、捕まってて・・・」
私達は全員、息も絶え絶えだった。
ただならぬ事態を悟り、祖父は急いで上着を羽織った。
「リリス、私と来なさい。ソラリス、その人を見てあげなさい。ダミアンとナックルも、落ち着くまでこの部屋から出ないように」
***
男達は姿を消していた。私達は走ってきた道を逆方向に進んで、機関室へ向かう。
「最後にそいつらを見たのはどこだ? どうやって撒いてきたんだ?」
「えーとえーと、最後はよくわかんなくて・・・ だってナックルに任せちゃってたから! でも最後に声が聞こえなくなったのは、このあたり」
「そうか」
じれったかった。私自身、さっきまでの出来事は夢だったんじゃないかと思い始めているくらいだ。
機関室でも、異常があった痕跡はほとんど残っていなかった。
「とりあえず、ブラックのところへ行こう」
***
「私の船にそんな不届き者が!? そんな馬鹿な」
ブラック船長は祖父が言うことすら、まともに取り合ってくれなかった。
「しかし実際に拘束されていた被害者が出ている。リリス達が助け出したんだ。それは事実だ」
「お嬢さんは夢でも見たんじゃないですか?」
「ブラック、これは大きな問題だぞ。この船に危険が迫っているかもしれん」
「じゃあその賊らを連れてきてくださいよ。どこにいるんですか?」
「それを探すのはお前の仕事だろう。我々は客だぞ。危険な目にあった。由々しき事態だ」
「とにかく! この船は私が完全に管理している。セキュリティも当然のごとく万全だ。そんなこと起こりようがない!」
ブラック船長は一方的に話を切り上げて、船長室を出ていってしまった。
「まったく、いつからあれほど愚かになった。何かあってからでは遅いというのに」
「おそれながら・・・ ジャック様、よろしいでしょうか」
それまで同じ部屋で話を聞いていた一等航海士のダンさんが話しかけてきた。
「何だ」
「ブラック船長はあのように言っておられましたが、実態としてはこの船の運用管理はまともにできていない状態です。いくつもの企業が参画し、完全な縦割り組織。縦割りとはいってもそれらを統括する運営組織はあってないようなもの。現場では、自分の他にどんな人間が働いてるかもほとんど知らず、関心もないという状態です」
ああ、だから私達がバックヤードにいても誰にも咎められなかったし、助けを求めても無視されたのか。
「ブラックはそのことを把握していないのか?」
「ブラック船長はご存知の通り根っからの船夫気質ですので、航海については絶対的に責任感をもって遂行されておられますが、他のことは実際のところなかなか・・・」
「問題なのはその自覚がないことか・・・ 厄介だな。私達だけで、問題を解決しなければならないようだ」