第16話 港町・モワール⑤
久々に晴れやかな顔のソラリスを見た。出発を明日に控えた今日、私達はショッピングの最中だった。
「わ、何これすごーーい!」
「それはリンゴンの縦笛ですねぇ」
ガンジスが、手にする商品一つ一つを解説してくれる。ソラリスは物心ついたときからクリル村で暮らしていたので、モワールで目にするもの全てに興味津々だった。もちろん私だって、初めて見るものばかりだ。
「これ、カワイイ!」
「いいじゃん、そのワンピース。ソラリスに似合ってるよ」
「ダミアン、ちょっとこれつけてみろよ」
「やーめーてーよー!!」
「きゃははははは」
ソラリスが楽しそうにしているのを見ると、私も嬉しい。祖父が捜査でいない中、私達は五人でのびのびと町を歩いていた。
市のどこからでも、そのあまりにも大きな定期船を目にすることができた。この船は普通のタラップが届かないようで、海岸線ギリギリに併設された建物の屋上から乗り込むようだ。途中で途切れた階段が不自然に存在し、船まで伸びている。
荷物の搬入口は別にあって、鋼鉄製の船体の真ん中らへんに穴が開いて大量の積荷が絶えず運び込まれていた。
あれ? どれも馬車や大きな荷車で運び込まれているのに、手に持った小さな木箱だけを両手に抱えている人が、何人かいた。持っている箱も身についている衣類も、古びて汚れている。どことなく挙動不審で浮いていたから目に止まったが、彼らは一瞬の内に船の中に消えていった。
「ねーこれ似合わない?」
目を向けると、黒のローブをはぎ取られ、主にショッキングピンクの服や装飾品で塗り固められたダミアンが目に飛び込んできて、私の覚えた違和感はそこで途切れてしまった。
***
出発の朝が来た。ガンジスは馬車を荷物の搬入口から積み込んでいるので、祖父含めた5人で建物屋上から階段を昇る。モワールではリンネイ草の花を沢山買い込んだ。もちろん、これからこの大陸で必要になるであろう分を充分に残して。
これから私達は、魔界の扉が封印されている、新大陸へ渡るらしい。
甲板では、ブラック船長直々に出迎えてくれた。改めて祖父とガシッと握手を交わす。
「よろしく頼む」
祖父の声は、いつもより重厚に感じた。
ブラック船長は何も言わず、ニヤッと笑みを浮かべた。