第15話 港町・モワール④
「ソラリス・・・」
「ねぇダミアン! どういうことなの! 瘴気に感染しても治せるの! 私のお父さんも治せるの!? その鎌があれば、生き返らせることができるんじゃないの?」
ソラリスはものすごい勢いでダミアンに詰め寄った。
「む、むりだよ! もう死んじゃってる人を生き返らせることは禁忌なんだ。やったらめちゃくちゃ怒られちゃう」
「じゃあできるのね?」
あー・・・ とダミアンが言葉に詰まる。
「ねぇ! お父さんを生き返らせてよ! 私のお父さん瘴気のせいで死んじゃったの!」
ソラリスがダミアンのローブをつかんでブルンブルン振るう。
「いやっ、、、だから無理なんだってばぁあ〜〜」
「おいっよせよせ!」
ナックルが必死にそんな二人の間に割り込もうとしている。私は祖父の方を向いた。
「何とかならないの?」
「ふむ・・・ 死神とはいえ、安易に生死に介入することが禁忌なのは確かだ」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ? リゲルさんの死の責任は?」
「わかってる! だが、ダミアンでどうこうできる問題ではない。実現できるとしたらこの子の父親、アルハンブラくらいだろう」
祖父が立ち上がった。
「ダミアン! アルハンブラと連絡を取れるか。私から話す」
意を決したような祖父の剣幕に、揉み合っていた3人の動きが止まった。
***
「駄目だ」
銀髪ストレートのイケメンが、きっぱりとそう言った。ダミアンが持つ手鏡から、その顔が覗いている。
「瘴気の流入は自然に起こった事態じゃない。特別扱いをしてくれても良いだろう」
祖父も一歩も引かない。
「死神が生を与えて良いのは、死神自身が死をもたらした時だけだ。我々が関与していない魂を無秩序に逆流させるとどういうことになるか、お前ならわかるだろう、ジャック!」
「それは管理上の問題だろう。手間は増えるがうまくやれないことはないはずだ」
「なぜ俺が貴様のミスの尻拭いをしなければならない」
議論はずっと拮抗していた。
「随分な言いようだな。息子を預けておきながら、あくまで他人事でいるつもりか」
「何だ、脅すつもりか?」
「昔はもっと苦難でも、共に立ち向かっただろう」
「・・・あのときとは違う。俺にも立場がある」
そこでようやく、言葉が淀んだ。
後から聞いたら、六十年前はこの人は冥界の第一王子として部隊を率い、魔界と戦ったらしい。
「あのときより人口ははるかに増えている。このまま魔界の封印が完全に解けてしまえば、かつてないほど人が死ぬ。それこそ混沌になるぞ。私はそれを防ぐために動いているんだ。少しくらい便宜を図ってくれてもいいんじゃないか?」
祖父は最後は、穏やかな声色で語りかけた。
「分かった・・・ この件が片付いたら考えておいてやる。あと、たまには顔を出せ。メリルも会いたがっている」
そう言って、姿を消した。手鏡はただの鏡に戻った。
ソラリスは気が抜けたのか、その場に座り込んだ。
「じゃあ、これって・・・」
私がかわりに祖父に問いかける。
「ああ、魔界の封印をきちんと締め直したら、リゲルを生き返らせてくれるようだな」
祖父もほっとしているようだった。
「ホントに生き返らせてくれるんでしょうか?」
ソラリスの表情には、希望と疑念が渦巻いていた。
「それは大丈夫だと思います」
答えたのはダミアンだった。その声に迷いはない。
「ああいう返事でも、お父さんは一度了承したことは絶対にやってくれます」
「ああ、私も大丈夫だと思う」
二人の言葉を聞いてようやく、ソラリスは目を潤ませ、声を上げて泣き出した。しかしその顔は、笑みに溢れていた。