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第14話 港町・モワール③

 モワールの町長ダルンと、ブラック船長も駆けつけて現場検証が始まった。

 大陸を結ぶ重要な定期船の船長だけあって、ブラック船長はこの町では相当有力者らしい。道すがら大量の野次馬が、綺麗に二つに割れた。

 祖父が中心となり、壊された建物の瓦礫の周辺を調べている。祖父自身も元勇者であり、最高位の貴族なだけあってこの町の警察のような人達に、最大限の敬意を受けていた。

 白っぽい土で固められた二つの建物の間にある細い路地で、"彼"は瘴気を吸ったらしい。これは、あのとき助けを求めていた"彼"の妻の談だ。

 それまで、町で瘴気が漂っているという目撃情報はなかった。いきなりその路地だけ? その疑問が祖父達の間で議題になり、路地の両隣の建物に調べが入った。すると片方の建物の中に、壊された壁の残骸に混ざって瓶詰めにされた大量の瘴気がそこら中に転がっていた。


      ***


「じゃあそこにはもう誰もいなかったんだね?」

「ああ、もぬけの殻だった」

 夜遅くになって、祖父は宿に帰ってきた。あれから家宅捜索をして、徹底的に人の痕跡を探したらしい。

 宿のラウンジで、祖父と私、そしてダミアンとナックルは顔を突き合わせていた。ソラリスはまだ部屋で寝込んでおり、ガンジスが看病していた。

「このビンの一個が割れて、漏れ出したの?」

 目の前には調査のために祖父が持ち帰ってきた一本の小ビンがあった。その中には、灰色のもやもやがふわふわと漂っている。

「割れたビンはいくつもあった。どこまでが事件前に割れていたかはわからんが、建物の外まで漏れ出すほどだから一つではないだろうな。だが、問題はそこじゃない」

「何でこんなものがあるのか、でしょ?」

「そうだ」

「瘴気をビンにつめるなんて奇特なこと考えるやつが、こっちにはいるんだなぁ」

 ナックルが大きな伸びをしながら言った。

「クリル村の山賊もビンに詰められた瘴気を持っていた。もしかしたら裏で流通してるのかもしれんな」

 麻薬みたいな感じか。

「でも吸ったら元には戻れないんでしょ?」

 私は、ずっと考えていたことを口に出した。

 瘴気を吸った人は今鉄製の檻の中に閉じ込められている。

「ガンジスは、魔界の封印を締め直して瘴気を減らせば治せるって言ってたけど、その話はおかしい。だって瘴気は明らかに目に見えてあるんだもん。ここにも」

 私がビンを突きつけても、祖父は何も言わない。私は続けた。

「瘴気を吸って魔物になったモンスターも、怪物になった人間も、元には戻れない。だから眠らせて、閉じこめるしかない。根本的な治療方法はない。違う?」

 祖父が目をそらした。

「どうなの!」

「違わない。瘴気はそもそも魔界のものだ。人間にはどうしようもない」

「なんでガンジスに嘘をついたの?」

「嘘をついたわけではない。どうなるかはわからないが、光明はそこしかない。魔界の魔力の流れの深層を究明できたら、活路を見出だせるかもしれない」

「ということは六十年前はできなかったんでしょ?」

「あのときは私も魔力に対する理解が及ばなかった。今とは違う。はっきり言って、前回の大戦の後、このために魔法使いに転身したようなものだ」

「それなら、こんなにのんびりしてていいの? ただ瘴気が漂ってくるだけじゃなくて、こうやって悪用もされてるんだから、一刻も早く魔界の扉に行かなきゃいけないんじゃないの?」

「その通りだ。だから出来得る限りの最速で向かっている」

「私にはそうは思えないけど? このままだと、今日の人とかソラリスのお父さんみたいに犠牲になる人が増える」

「あの〜〜ソラリスのお父さんも瘴気に冒されちゃったんですか?」

 それまで私と祖父のすさまじい剣幕の会話をビクビクしながら聞いていたダミアンが、恐る恐る尋ねてきた。

「そう。瘴気に耐えられなくて、亡くなっちゃったけどね」

「そうですか、もう死んじゃったんですね。うーん、じゃあ難しいかな? もしかしたら、これで何とかなるかと想ったんだけど」

 そう言ってダミアンは懐から何か取り出した。それは不思議な形のナイフのようだった。刀身が大きく湾曲している。

「これは死神の鎌か?」

 祖父が身を乗り出した。

「同じものです。僕が持ってるのは、小さいやつ」

「子どもにこんな危険なものを・・・ アルハンブラは何を考えてるんだ」

「これで何とかなるってどういうこと?」

「この鎌は、この方向から切ったら相手に死を与えるんです」

 ダミアンはそう言って曲がってる方を下に向けてナイフを振るった。

「そして逆側で切ったら、生を与えます。だから瘴気を吸ってもまだ生きているうちなら、一度死を与えて、その後もう一度生を与えたら瘴気を除去できると思います。お父さんがやってるのを見たことあるから」


「それって、どういうこと?」

 これを言ったのは私じゃなかった。バッと私達が振り返ると、そこにはソラリスが立っていた。



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