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第13話 港町・モワール②

 馬車を降りてまず目に飛び込んできたのは、王都の城に匹敵するんじゃないかと思うくらい、はるかにそびえ立つ鉄の壁だった。

「何これ!?」

 ソラリスとダミアンも、大声で叫ぶ私の隣で呆然としている。(ナックルは興味なさそうに鼻をほじっていた)

 その壁だが、端の方まで目を凝らしてよく見ると、

「船!?」

「蒸気船だな」

 馬を繋いだ祖父が近づいてきた。

「じょうきせん?」

 ソラリスが人差し指を口の下にあて、首を傾げる。カワイイ。

「知らないのも無理はない。これは新大陸の技術だ。石炭を燃やしたときにでる蒸気でタービンを回し、スクリューで進む。私もこの最新型を見るのは初めてだ」

 蒸気船か・・・それにしても大き過ぎないか?


「ジャックさん!」

 低くてダンディな声が、祖父を呼んだ。そっちに目をやると、いかにも豪華客船の船長といった服装(制服?)と帽子の男性が、同じく船員のような人達を何人も引き連れて歩いてきた。

「おお、ブラックか!」

 二人が、ガシッと力強い握手を交わす。

「何十年ぶりでしょうかねぇ」

「昔旅したときは、小さな帆船の船頭だった君も立派になったな」

「あのときは新大陸に渡るのに三ヶ月はかかりましたが、今は一週間で行けますよ!」

「ふん、今となってあんなにかかっていては、頼まれても乗らんよ」

 祖父がニヤリと口角を上げる。


      ***


 この船の出発は、明後日らしい。今私達がいるこの大陸と新大陸を一週間で結ぶこの船は、それぞれの大陸に五日間ずつ滞在し、人流と物流の基盤を担っているそうだ。

 そんな港町ということで、モワールは王都よりもはるかに栄えた町だった。宿屋の手続きを済ませ、私達六人は市場にある露店で夕食をとっていた。

 食べたこともないような味付けの魚料理を堪能し、談笑していると、市場全体の喧騒を全てひっくり返すような悲鳴が響いた。


 キャーーーーーー!


 ただならぬ悲鳴のみならず、人々の騒ぎを大きくしたのは、市場を取り囲む建物が勢いよく破壊されたことだった。

 そこから現れたのは、瘴気を吸った人間。久しぶりに見たその姿だった。

「夫が! 夫が急に・・・」

 その近くにいる女性が息も絶え絶えに周囲の人々に助けを求めている。


 祖父はその姿を見た瞬間、テーブルを飛び越えて走り出した。

 ソラリスは一瞬立ち上がったあと、口元と胸をおさえてその場に崩れ落ちた。地面に座り込んでしまう。

 その姿を見た私は、祖父に急いで声をかけた。

「ちょっと! 気をつけてよ!」

 祖父はテーブルやパラソル、人の群れをうまくすり抜けながら、一直線に進んでいた。

「分かってる!」

 そんな声がわずかに聞こえてきた。数メートル程の距離まで近付いたとき、祖父は手を前にかざし、電撃の塊を複数個、暴れる怪物に向かって飛ばした。


 ああ、また! と地団駄を踏みそうになったが、今回相手の四肢に直撃したその祖父の青白い電流は、太く膨れ上がった腕と足のみに留まり、その動きを封じていた。

 祖父はその場で立ち止まり、辺りを急いで見回した。そして何かを見つけ、露店の店先からそれを掴んで怪物に近付いた。鼻先にそれから出る紫の飛沫を吹きかける。崩れ落ちる怪物。

 ソラリスのことをガンジスに任せ、私は祖父のもとに駆け寄った。

「リンネイ草の花だ。どんな生物であろうが、たちまち眠りに落とす。モワールの市になら、あると思った」

「じゃあ今回、人の命は護れたんだね?」

「勇者の力だ。命を奪うばかりの力であって良いはずがない」

 そう言って、祖父はふうっと息をついた。

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