第12話 港町・モワール①
「結局、ナックルは何者なの?」
揺れる馬車の中で、私はナックルに尋ねた。馬車の中では、ソラリスと私、ダミアンとナックルが向かい合わせで腰掛けていた。2頭の馬で引く馬車はガンジスが御し、祖父は一人で愛馬に乗っている。
「おれは妖精だ。魔界生まれだが冥王にとっつかまって、ダミアンの世話役を仰せつかったんだ」
「妖精なの? えぇ・・・」
ついつい、落胆が表情にも出てしまった。
「何だよ? 不服そうだな」
「いや、妖精ってもっとかわいくてちっさな女の子じゃないの?」
「ウルサイな、妖精にも色々いるんだよ!」
「え、じゃあ羽根とかもはえてるの?」
「あるぜ」
そして顔を真っ赤にして力みだす。
「ちょっと、ちょっと! 何か別のものが出そうになってるけど?」
十数秒経つと、ナックルの肩甲骨のあたりから、確かに羽根がはえてきた。しかし、蛾のような薄汚れた色の羽根だった。
「おい、お前今さらにガッカリしただろ?」
バレたか。
「でも大抜擢だね」
それまで私達の会話を聞いていたソラリスが口を開いた。
「まぁ、便利なペットみたいなもんだ」
「えー、でもパパはナックルのこと気に入ってるよ? 最初に出会った狩猟のとき、パパの命を護ってくれたから」
「え、何その話?」
俄然、このしょぼくれた妖精に興味が湧いてきた。
「魔界の森で狩猟の儀をやったとき、パパはお付きの人達とはぐれたんだけど、いっぱいの魔族に襲われそうになったときに、偶然そこにいたナックルがマインドコントロールで気をそらせたんだよ」
語りたがらないナックルに代わり、ダミアンが説明する。
「そのあと冥界に帰るときに、パパがスカウトしたんだ」
「へぇー、すごい」
「まぁオレも暇してたからな。大体冥王にとっちゃあの程度の魔族は物の数じゃなかったんだ。随分感謝されたから気分を良くしてホイホイついていったら、直後に戦争が起こってオレは帰れなくなった。まぁこいつもいいやつだし、冥界もわるくなかったけどな」
そう言って隣りにいるダミアンを小突く。ダミアンも笑っていた。この二人は本当に仲が良いようだ。
「じゃあナックルも魔族なの?」
ソラリスの声に硬さが混ざった。ちらっと見ると、顔もわずかに強張っている。場の空気が凍った。事情をしらないダミアンとナックルも異変に気付いたようだ。
「いや、妖精は魔族として扱われたことはないなぁ。妖精はこっちの世界にも魔界にもいる種族だ。オレの家系が偶然魔界に住んでただけだ」
ナックルが慎重に答える。
「そうなんだ・・・」
ソラリスの口調に、場の空気が少しだけ緩んだ。
「一体何なんだ?」
呆気に取られたようにナックルが尋ねる。
「い、色々あったのよ!」
私が焦って取り繕っているうちに、馬車が止まった。
「お嬢様方、付きましたよ。ここが港町・モワールです」
そんなガンジスの声が聞こえてきた。