第11話 王都④
「まったく・・・ 少し焦ったぞ。誘拐の痕跡にまみれていたからな。そして君からは霊気の匂いがする。・・・もしかして、アルハンブラの子か?」
「お父さんが・・・ ジャックさんを連れてこいって」
ダミアンと呼ばれたこの少年は、今にも泣き出しそうだ。
「やはりそうか。魔界の話だろう。やつに伝えろ。そんな暇はないとな」
「え、えぇ・・・」
少年は、明らかに動揺している。
「ちょっとそういう言い方ないんじゃない? まだ子どもなんだし」
祖父が今度は私の方を見た。
「見た目に惑わされるな。子どもとはいっても君らよりはるかに年上だぞ」
えっ、どういうこと?
ソラリスも怪訝な顔をしている。
「この子どもは冥王アルハンブラの息子、つまり死神の子だ。冥界生まれは歳の取り方が遅いし、そもそも何歳という概念も薄い。君、いつ生まれた?」
「前の戦争の、ちょうど十年後に生まれました」
「ほら見ろ、つまり五十歳だ」
私達はその事実に驚いたが、祖父の言い方にも腹がたった。
「年齢は関係ないでしょ。大人げないよ。ダミアン君が嫌いなの?」
私はダミアンと呼ばれた目の前の少年に、少し親近感を覚えていた。祖父は少し困った顔をした。
「嫌いなわけではない。だが今冥界に行っている暇はない。ダミアン、アルハンブラに伝えろ。懸念していることに対して、ジャックはすでに動いているとな」
「はい・・・」
二人はその場で煙に包まれ、姿を消した。
***
翌朝、私達は荷をまとめ、オーガスタの見送りを受けた。屋敷の玄関の大きな扉を開けたとき、そこにはダミアン君とナックルが立っていた。
「何をしている?」
祖父が尋ねた。
「お父さんに伝えたら、お前も一緒についていけって。勉強になるからって」
「フン、監視役だろう」
「そんな言い方しないの」
なぜダミアン君にだけ、祖父はこんなに当たりが強いのか。
「そんなんじゃないです! 魔界の封印が解かれると、冥界も無事ではすみません! これは僕らの問題でもあるんです! だから、僕も・・・僕も・・・」
ダミアン君の言葉尻が、どんどん萎んでいく。がんばれ!
「はぁ・・・」
そんなダミアン君を見ていた祖父はしばらく考えていたが、ため息をひとつついてから言った。
「ガンジス、馬車の準備を。この人数になったらもう」
「じゃあ!」
ダミアン君は初めて目を輝かせた。
「ああ。来ると良い。ただし自分の身は自分で護るんだぞ」
「はい!」
「素直じゃないんだからぁ!」
ダミアンとナックルは、私達のいる方へ歩き出した。