第103話 共同作戦⑦
「やれやれ……面白いものが見られると思って待ってやったが……つまらん」
城の壁が崩れた土埃の中から、魔王が姿を現す。
最初に腹に叩きこんだ掌底が何も意味を成さないことは、リラにもわかっていた。
少しの時間だけでも稼げればと思ったが、思ったより娘と話す時間を作れたのは、そういうことだったのか。
「私に歯向かうということは、死ぬ覚悟ができているということで良いな?」
魔王が腰に差した二本の剣を抜く。魔界の剣と冥界の剣。各世界の力そのものである剣相手に、一介の神である自分は完全に無力だ。
だが、そんなことは関係ない。娘を逃がす!
もうすぐ井戸に到達しそうなソラリス達を目の端に捉えながら、リラは神樹から切り出された、愛用の棍を構えた。
***
ズ……ズン……
私が父を探して辺りをキョロキョロしていたら、何かが崩れたような音がして、僅かに地面が揺れた。
今度は何!?
そう思っている内に、ピンクの煙とともにナックルが現れた。
「ふぃ〜やれやれ一丁上がり……ってリリスにソラリス!? 戻ってたのか!」
「ナックル、今の音は? 何か関わってるの?」
ソラリスが尋ねる。親指で窓の外をクイッと指差すナックル。
二人で立ち上がって覗いてみると、大きな岩山が、街の一番外側の城壁よりももう少し向こうに鎮座しているのが見えた。
「あんなのあったっけ?」
「アレに手足が生えて暴れてたんだよ……ついさっきまで。ま、俺にかかりゃあ屁でもないが」
「すごい!」
「剣の力を使ったの? あった?」
私が気になったのはそこだった。
「ああ……言ってたやつか……結論から言うと、剣はあったはあった」
「あったはあった?」
「だが、サナダはもう持ってなかった。勇者の剣と同じだ。大昔に砕け散ったらしい」
「えー!」
どうするのよ。せっかくお父さんが調べて……あ、それでお父さんは!?
***
「梓! 近くにいるのか!? どこなんだ!」
ジメジメした、石造りの暗い通路。ところどころ蝋燭の明かりが灯っていて、井戸から出た後に歩いた場所に似ていたが、さらに陰気な感じがした。
「梓!」
狭い通路にこだまする。黙った方が良いだろうか。また娘が"魔王"と呼んでいたような、怖い人がいるかもしれない。
オォーーーー……ィ
ん? 微かに声が、聞こえた気がした。娘ではない。恐る恐る近付く。
見えてきたのは、太い鉄格子。ここは地下牢のようだった。
ガシャン!
「ヒィッ!」
黒々とした髭を生やした老人の顔が浮かぶ。
「モシカシテニホンゴヲ、ハナシテイルノカ? ソノコトバハズイブン長いアイダ……聞いていない」
「そうか貴方が真田……啓助さんですね」