第102話 共同作戦⑥
私に、よく似た顔……
「なんで魔王がここに……もしかして魔界に来ちゃったとか?」
ソラリスが私の隣で呟く。
「逃げよう」
父を引っ張り、私達は走り出した。
「どこに行くんだい?」
背を向けて走り出したのにも関わらず、次の瞬間には目の前に魔王がいた。
「あの…… 貴方は一体……?」
父が魔王に近づこうとする。
「やめて!!」
私の脳裏に目の前の女が祖父を……ジャック・シュヴァルツを刺し殺した光景が浮かぶ。
「おいおい、私が可愛い娘に手を出すはずないだろう?」
魔王が両腕を広げながらこっちに歩いてきた。絶体絶命。もうどうしようもない。だけど、今のところ敵意は感じられない……と思っていたが違った。目にギラリと光が灯った。
「娘ではない者は違うがなぁ!」
紫色に光った両掌が私の両隣にいる父とソラリスを狙う。
「させんっ!!」
魔王の動きが止まり、目が見開く。私も咄嗟に声のした方を振り向いた。目の前を、純白の大きな翼が通過する。
「な!?」
魔王が後方に吹き飛ばされた。
「可愛い娘なのは……こちらも同じだ!」
「リラさん!」
ソラリスの母親がそこにいた。
「早く逃げろ! 長老衆の井戸を使えばガルーアに飛べる!」
「リラさんがいるってことは……やっぱりここは天界なんですね」
「二日前だ。単身攻めて来た。剣二本の力の前に為す術はなく、多くの神が殺された」
そう言いながらリラさんは、顔を歪める。
「行こう」
ソラリスが、私の服の袖を引っ張る。
「良いの? あ、あのリラさんも一緒に……」
「いや、君達のために、道を開けよう。それにまだ生きている仲間達を護らなければならない」
リラさんが私の方を見て、頷く。
私はいてもたってもいられなくなった。暗い部屋に浮かぶ私の母の姿が、頭に浮かぶ。
「ソラリス、ほんとにこのまま行って良いの? だってさっき可愛い娘って……」
「だから早く行かないと! お母さんが言ってたことだよ!」
「あ、ごめん……」
あ、今お母さんって……
「絶対生きててよね!」
ソラリスはリラさんを一瞬だけしっかり見つめて、そう言った。そしてすぐさま走り出す。私も父を連れてその後を追いかけた。
「ああ」
そう返事をしたリラさんの瞳が、僅かに煌めいていた気がした。
長老衆が座っていた大きなクッションのような椅子。中央の椅子の後ろに井戸がある。一度見たことがあった。
前に使った井戸と同じなら、イメージした行き先にたどり着けるはずだ。
今、私達が行くべきは……
「王都」
ソラリスも隣で力強く頷いた。
「しっかり掴んでてね」
今度は父の方を見て言う。
「あ、ああ……」
明らかに全ての状況が呑み込めていない。でも、構っている暇はなかった。
私達は井戸の中に飛び込んだ。
***
身体に強い衝撃が走る。そっと目を開けると、同じ景色。ハッと身構えたが、目を凝らすと、そこにいたのは何人かの人間。
「君は……リリスか?」
こっちをまじまじと見つめていたのは確か……モントール伯爵? 良かった……ちゃんと移動できたみたい。ソラリスも隣にいる。
あれ!? お父さんは?