第10話 王都③
どうしよう・・・ 入り組んだ道をいくつも入り込み、もう屋敷にも城にも戻れる気がしない。見上げれば城はそこにあるのに、いくつもの高い壁が間を阻んでいる。
噴水の広場だけでとどめておけばよかったのに、もっと好奇心を示して奥の道に進んだことが良くなかった。いまやどんどん薄暗い裏路地になり、怪しい雰囲気の露店がところどころ出ているだけになり、人通りもなくなった。
「ごめんね、ソラリス・・・ わたしがあんなこと言わなければ・・・」
「謝らないでよ。途中までは私もちょっとわくわくしてたし」
ソラリスはあくまで優しかった。
私達はついに足を止めた。細い道の真ん中で、きゅっと身を寄せ合う。
「大丈夫大丈夫! きっとすぐ見つけて、助けてくれるよ・・・」
私の声も徐々に細くなる。
『うーん、そんなことはないんじゃないかなぁ。もう無理だよ。無理無理! 私達はずっとここで、暮らすのさ!』
ん? 甲高い、聞いたことない声が聞こえた。
「何、今の?」
私とソラリスは、顔を見合わせた。
「あ」
ふと横を見たソラリスが、声を上げた。私もそっちを見る。そこには、小さい影が。よく見ると真っ黒のローブを身に着け、フードをかぶった少年だった。身長も私達よりはるかに低い。
『ここで暮らすのさ! ここで暮らすのさ!』
だが、声は別のところから聞こえる。
「あの!」
その子どもがしゃべった。フードを両手で握りしめて、顔を隠している。
「ジャックっていう人のお孫さんですよね!」
ソラリスがまた私を見てくるので、私は恐る恐る返事をした。
「そ、そうですけど・・・」
だが、その子どもは黙り込んだ。
「えーと・・・」
『ジャックに会いたいんだってさー。だってさー』
また声が聞こえてきた。そしてその子どもの横からもくもくとピンク色の煙が立ち始める。
「何!?」
煙が止んだとき、そこには子どもと同じくらいの背丈の男が立っていた。だがしっかりとした髭も生えているので、子どもではない。
「おい、いい加減察しがよくなれよ! ジャックってやつに会わせろって言ってんの! ウチのかわいいダミアンが勇気を出して頼んでんだからさぁ!」
そのおじさんが、さっきから聞こえてきたのと同じ声で喚いた。この人が喋ってたのか・・・
「ねぇナックル、ボクやっぱりむり!」
子どもがおじさんの方に向き直った。
「わー! おいダミアン、オヤジさんに言われただろ? ジャックという男を連れてこいって。せっかく王都で見つけたと思ったらやっぱり怖いからって、まだ話しやすそうな女二人を操って何とかここまで連れてきたってのに!」
「私達がここまで来たのって、あなたに操られたからなの!?」
そのおじさんが、しまったという顔をする。
「どうやって?」
「マインドコントロールってのを知ってるかい?」
何か聞いたことのあるような・・・
「大変だったぜぇ・・・ ジジイ二人を操ってジャックとかいうやつを足止めさせて、ガンジスとかいうやつをショッピングに行かせた。ほんで君らをここまで誘い込んだのさ」
恐ろしい、全然気が付かなかった・・・
「そんな能力持ってるんならいきなりジャックさんを操ればよかったじゃない」
ソラリスが至極真っ当なことを言った。
「そらぁーー、無理だぜ! あんなバケモンみたいな魔法使いの精神に干渉しようとしたら逆にこっちが破滅させられちまう!」
「私に用だって?」
それは一瞬の間だった。バリッという音だけがわずかにして、その直後、男の子とおじさんの背後に祖父が立っていた。
「ギャーーー!!」
二人の叫び声が、シンクロして路地に響き渡った。