第1話 始まり①
その日、山梨梓は高校の入学式に向かうために家を出た。地元ではある程度の学力がある者は皆行く高校で顔見知りばかりだが、それでも梓の胸は高鳴っていた。
見慣れた光景、歩き慣れた道。行く高校も、いつも前や後ろをチャリで通るところだ。特別感がなさすぎて、共働きの両親も普通に仕事に行ってしまった。
それなのに――――――――
通学路で一ヶ所だけの横断歩道。国道を渡るための長い横断歩道だ。少し広めの道との十字路にある。梓も何千回と渡ってきている道だった。
梓はイヤホンで音楽を聴いていた。スマホを見ていて、左右の確認もしていなかった。気づいたときには遅かった。スピードを上げた右折車に、梓の身体ははね飛ばされた。
少し遠くで、幾人もの悲鳴と怒号が響く。昏睡状態の梓は、重体の状態で救急搬送された。
***
目を開くと、見知らぬ顔がすぐ目の前にあった。
「キャッ!」
ブツブツだらけの赤ら顔に驚きすぎて、私は手元の布団を自分の顔まで手繰り寄せて顔を隠した。
「おお! お嬢様が目を覚まされたようですぞ」
ちらっと覗くと、その赤ら顔の男がどこかを向き、興奮して喋っている。
次はそっちの方に少しだけ目をやると、白髪混じってグレーになった口髭が目立つ、背の高い老人が立っていた。その老人も何か言っているが、声が小さくてうまく聞き取れない。
そんな光景を眺めているうちに、ようやく頭が起きてきた。あれ、ここどこ?
私は目覚める前のことを思い出そうとした。そうだ私は確か・・・
あれ? 思い出せない。ここはどこ? 私は誰?
布団の中からそっと、あらためて周りを見渡してみた。そこは今までテレビでしか見たことないような、木材のみで建てられた部屋だった。電灯ではなくランタンの灯で、部屋全体がオレンジ色に照らされている。
私自身はベッドで寝ている状態のようだった。結構ふかふかで、シーツも白く綺麗だった。
この部屋には、私以外はこの赤ら顔の男と老人しかいないようだ。すると、老人が私に近づいてきた。そして私の頭に手を置く。
「よく頑張ったな。信じていたぞ」
・・・?